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それから道場に戻っていまだに続いていた組手(もはや柔道になってた)を見て、お昼ご飯を食べ、伊織の部屋で話をして、夕御飯を食べてから帰ることになった。
二人は相変わらず安定のラブラブっぷりで微笑ましくなる。
「夜も暑いとか勘弁してほしー」
「眠れないよな」
午後8時のでも、やっぱり真夏は暑い。日差しがないだけ幾分ましだけど、湿気とかさ。むわっとしてる。
多貴と二人、そう長くない帰路を歩きながらのんびりと会話する。いつものことだ。
「…早織さん、何か言ってた?」
そして多貴が、俺が早織さんにどうして呼ばれているのか知っているのもあって、そう聞いてくるのも常。
「頑張ってるねって」
「…よかった」
だけど俺は、いつもその問いに似たような事しか返さない。
これは夏樹さんに言われたことだ。もし早織さんが二人にとってとても喜ばしい事を言ったとしても、それを全部伝えてはいけないと。
多貴が真面目で努力家なのは承知の上だけど、一度拒絶した早織さんが意思を曲げて認めてくれたその葛藤を、多貴の努力を無駄にしない為に、良いことは伝えても、伝えすぎては少なからず怠慢な気持ちになってしまうから、と厳しい意見を貰っていた。
多貴はそんなことにならない、と信じているけど、でもそれは外側から見た俺の意見であって、願いでもあったから。
幸せになってほしい、とただ願うだけなら簡単だけど、同時にそれを妨げる事も容易いのだと教えてくれた。
───幸せを願うからこそ、厳しくあるべき事を無くしてはいけない。それは二人に一番近いあんたがやってあげなきゃいけない、あんたが二人に出来る事だよ、と。
二人が深く繋がっているのは、そうしなければ共にいられないからで。そうしてまでも一緒に居たいと思っているから自らの努力を惜しまない。
影ながら支えることは、目に見える形で何かをするよりもずっと重要で、強いものなんだと知った。
「…進路、考えなきゃなぁ」
「やりたいことねーの?」
やりたいこと、か。
二人のことで一杯だったからなぁ。
『自分の事を大切にするのも二人のためになるんだよ』
そう言って笑った従姉の顔が浮かんだ。
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