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08
 

 そこでふと、今まで聞くに聞けなかった事を問うてみようと思った。


「あの…、なんで、二人が付き合うことを許してくれたんですか」


 いくら夏樹さんと仲がよくても、夏樹さんが説得しに来たとはいえ、早織さんの意思は堅かったはず。
 全面的に拒絶を表した早織さんの意思を変えさせるような何かは他にもあったんじゃないかと、俺は思っていた。
 でもそれを本人に聞くほど勇気がなかった。

 早織さんは俺の目を見て、また手元に視線を戻して、なぜか微かに笑った。


「伊織がね、…あの子、見た目女の子みたいじゃない?」


 頷いたものの思わず首をかしげた。


「昔からそうだけれど、普段あの子は大人しくて、静かで、変に利口で、子供らしくない子供なのよ」


 確かに伊織は落ち着いていて常に冷静で、怒っても静かに怒るような人だ。逆にそれが恐いんだけど。


「好きな人と離されて家に閉じ込められても、悲しそうな顔や不満な顔をするだけでね…。そんな子が、しばらく経った時ここに来て、私…怒られたわ」
「……え、」


 …怒られた?
 よく分からず何も言えないでいると、早織さんは微笑んだまま口を開く。


「やっぱり男の子ね。…今まで見たことがない顔で、声を圧し殺して、『どうして何も見ないまま突き放すんだ』と言った」


 確かに見た目は遊んでいそうだし成績も良いわけじゃない、知識を豊富に得ているわけでもないけれど。そんな彼の努力も見も聞きもせず門前払いで、無理だと決めつけて。
 学校には行けない、友達とも会えない。
 幸せになってほしいと言いながら、その幸せを貴女は奪っていく。自分はまだ子供で何も分からないけれど今の自分の幸せが何かは分かるし、それを大切にしたいのに───


「…泣きながら、自分でも何を言っているのか分からなくなりながら、あの子は必死だった。それが痛いほど伝わってきたわ」


 今の幸せを奪われたら、先の幸せなんて望めない。望みたくない。そう言って、伊織は早織さんに頭を下げたのだと。


「…私は、私達は確かに伊織の親だけれど、あの子が望む幸せを願う親だけれど、だからこそその幸せを奪う権利があるのかと、私はあの子を見て思わざるを得なかったわ」

 



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あきゅろす。
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