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06
 


「私と同じ思いをさせたくはなかった。でもそれは、相手が女性だと思っているから。伊織は男で、なのに交際しているのが、好きだと言ったのが同じ男で。私は頭が真っ白になった」


 確かに、普通は思わないことだ。
 恋愛は男女であることを当然と受け入れているし、それが普通だから。
 自分の子供が同性愛を育むなんて、親としては混乱するはずだ。ましてややっと産まれた子供が。


「あの子達の交際を許した後で、私は要さんに言ったの」


 ふ、と息を吐き、顔をあげて部屋の隅を見る早織さんの表情は穏やかで。


「私はもう子供を産むことが出来ないから、あなたは他に愛する人を見つけて、男の子を産んで、その子がここを継ぐようになれば、伊織はもう引き離される不安を持たなくていいんじゃないかって」
「え…?」
「でも要さんは、今まで見たことがないくらい怒った顔で言ったわ。…早織以外に愛せる人はいない。俺は自分の家の後継ぎの事よりも早織の事を大切にしたいって、愛しているんだって」


 自分が生きている間くらい、自分の幸せを優先したっていいじゃないか。
 要さんはそう言って笑ったのだという。

 なんだ要さん格好良すぎてすごい。


「まだ伊織は高校生だし、自分もまだ現役なんだから心配するなって言われたわ」


 確かにあの若々しさなら、まだまだ退く事はないだろうけど。
 良いのだろうか、当主としての面子もあるだろうに。


「伊織はね、小さい頃から賢い子だった」


 そう言って微笑む早織さんは、けれどもやっぱり寂しそうで。


「こんな家だから、周りはお堅い大人が多かったし、同じ年の子供みたいに、欲しいものをねだったり駄駄をこねたりしないで、どこか周りと一線引いて見ているような子供だった。 私がこんなんだから、負担にならないように小さいうちからそうなってしまったのよね。あの子は常に私に縛られてる」
「そんなこと…」
「だから、私が死んだとき初めて、あの子を縛る枷が外れて自由になれるのよ」


 死んだとき、と聞いた瞬間に、どくん、と鼓動が波打つ。


「なんでそんなことを…」
「わかるの。もう長くないって」


 


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あきゅろす。
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