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04
 

 夏樹さんは最初こそ俺らの話を聞いてくれてはいたけれど、それだけ。
 アドバイスというよりも、今はただ言われたことをしなさいと何度も言って多貴を促した。

 元々多貴は勉強が苦手で成績も良いとは言えなかったし、自分に必要のない知識を得ようとする知りたがりな性格でもなかった。
 ただの男子中学生で、幼馴染みに恋をしたひとりの男で。
 頭の回転は早く覚えも良かったけれど、やる気がないもんだから興味がないものは覚えてないような、そんな人間で。


 だから多貴は最初、早織さんの言った条件に納得してはいなかった。
 なんで付き合うのにそんな厳しい条件を出されなきゃいけないんだと、好きだから一緒にいたいのになんで無理矢理離されなきゃならないんだと、毎日同じような事を言いながらも、それでも多貴は言われた条件を満たそうと奔走した。



 伊織の成績はいつも上から三番以内には居たし、俺も近い位置にいたから、出来ることはしたいと、勉強で分からない事があると聞かれたら答えられる所は答えた。
 だけどそれはあくまで、多貴が本当に分からない時だけで。多貴が自分で努力して出来る事に対して手を出さなかったし、俺がしてきた事はただ、弱音や愚痴を聞いたりするだけで。
 夏樹さんはそれでいいんだって言ったけど、当時の俺には多貴が不憫だと思うばかりだった。




「…主人は、要さんはね、私をとても愛してくれてる」
「……はい」


 そう昔でもない過去を思い出していると、唐突に、小さく独り言のような声が聞こえた。
 早織さんは自らの手を眺めて、懐かしそうな、だけど寂しそうな顔をしていて。


「私はこんな体だし、いつ動けなくなるか分からないような女と結婚したいなんて言われた時には、耳を疑ったし、けれど同時に心から嬉しく思ったの」


 左手の薬指に嵌まったシンプルな指輪を弄りながら、早織さんは笑う。


「けれどやっぱりね、要さんのご両親は、私を認めてはくれなかった」
「…え?」
「持病のせいで子供が出来るかも、まして産めるかも分からないような女を嫁に迎えることは出来ないって、面と向かって言われたわ。あの人は一人息子だから」


 


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あきゅろす。
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