03
「色々ありますけど、問題ないです」
「…楽しそう?」
早織さんはどこか申し訳なさそうにそう言った。
「はい。いつも笑ってます」
「そう。…よかった」
ほっとしたように息を吐き、部屋の隅を見つめる早織さん。
俺はいつものように学校での様子を伝えて、もうひとつ必ず伝えることがある。
「この間の中間テスト、多貴は二位でした」
「……そう、頑張ってるのね」
伊織の恋人である、多貴の成績のことだ。
「多貴は頑張ってます、すごく。早織さんに認めてもらえるように」
「…そうね、分かってはいるのよ私も。あの子が真面目で努力家だというのは。頑固だと思っているでしょうけれど、仕方ないのよ、これだけは」
二人がちゃんと付き合う事を許す条件として、早織さんが出したもの。
それは、伊織の恋人として隣に立つふさわしい人間として、学力はもちろん、運動や学校で習う以外の知識、そういった教養を当たり前に持っていること。
伊織や多貴にとって人生において邪魔になること、悪影響でしかない事をしないこと。
裏切らないこと。
向き合うこと。
自分の全てで愛すること。
その他色々な条件があったし、それをひとつでも違えたと知ったときは問答無用で引き離すと、強い眼差しで早織さんは二人に言った。
体は弱いといっても、早織さんの性格は勝ち気で、一度言ったことは曲げない真っ直ぐなものだ。
だから、一度拒絶した早織さんの意思は曲げられないものだと思っていた。
当時付き合っていると知られた多貴と伊織は一度引き離され、伊織は自宅から出ることも、連絡を取ることも禁止され、俺ですら会わせてはもらえなかった。
勉強は家庭教師を雇って、長く早織さんの身の回りの世話を任されている家政婦さんに見張られたらしい。多貴は毎日家を訪れたけど門前払いで何度か俺に泣きついた。
俺は何も出来なかったけれど。
抗えない大きな存在と壁は、俺たちだけでは何の揺らぎもなかった。
けれどその状況を覆したのは、なんの接点もないと思っていた従姉の間宮夏樹だった。
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