05
「…真っ直ぐって、」
それは、恐れとか睨むとか羞恥とか気まずさとか相手に色々な感情があって、ただ目を見る事がないという意味なのか。
ただ純粋に、目を見られる事がなかっただけなのか。反対に自分もそうやって相手を真っ直ぐ見なかったのか。両方なのか。
けれど俺は、初めて屋上で会った時から、瀬戸の目を見る事に抵抗はないし、そもそも相手の目をじっと見て話すタイプだから、寧ろ相手が先に反らす方が多い。
お互い目を見続けるタイプだと気持ち悪いくらい見つめ合う事になるけどな。蒼司とか。
「…瀬戸だって見てんじゃん」
真っ直ぐ見てくる、とは言うけれど。
俺からしたら、瀬戸もしっかり目を見て話してくるタイプで。目付き悪いとかそういうのはあるけど、睨まれてるわけじゃないし、睨んだらもっとトゲがあるっつーか、射殺すような目だし。
普段は、どちらかと言えば温かい方なのに。
「お前が見るからだ」
「俺のせいかよ!」
俺が見るからお前も見るんかい!
そんな突っ込みに、にやりと口端を上げた姿は、これは女の子が確実に落ちるだろうなってくらいの格好良さだった。
「お前見てると、目を見たくなる」
「…ぅん?」
よく分からないけど。
目を見たくなるってことを意識したことがあまりないからか。
「───なぁ、」
「……な、に」
低く、心地好いと思える声なのに。
普通に返事が出来ない。
なんか近いな、と思った。
そんなに離れてない場所で、手を伸ばせば頭に触れられるような距離で座っているはずで。
ただ吸い込まれそうな黒い目から、他所に視線を移せない。喧噪がさっきより遠くなってるような。
座っている場所の高さのせいで、少し下から目だけで見上げてくる双眼がさっきより近づいてる気がして。
体が硬直して、張り付いてしまったみたいに動かない。瞬きすらしてるのかも分からない。
何故だか、息がしづらい。
間近に迫る黒の奥に籠った熱を、俺は知っている気がした、瞬間。
‐ヴーッ、ヴーッ、ヴーッ
「───うわっ、!?」
「…ッ!」
帯の隙間に挟んだ携帯の振動に、息が交わるほどの距離にあった顔が一瞬で離れた。
……え、いま、なに?
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