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04
 

「っ、ごほッ…はぁ、な…っ」
「…落ち着け」


 お 前 が 言 う な。

 恨めしい気持ちで横目に睨んだけど、噎せて涙目になったせいでよく見えない。
 咳が落ち着いて、小さく深呼吸する。


「……なんだよ急に」


 はー、と息を吐き隣を見る。
 だがしかし映ったのは後頭部。左手で頬杖ついて左側を向いているようだ。なんでだよ。

 少ししてこっちを向いた瀬戸は、いつもより雰囲気が違う。浴衣もそうだが髪を少し弄ってるからなんだろうけど、どっか不機嫌そうに眉を寄せてる。


「……あんま見んな」
「なんで」


 いやお前も俺をガン見してますよね?
 見るなと言われると俺は逆に視線を外さない人間です。外さないけど、なにこの見つめ合い。自覚した瞬間すごく恥ずかしくなったんだけど。

 そんな見つめ合いに、先に白旗を上げたのは瀬戸だった。頬杖をついたまま正面に顔を向けて微かに溜め息を吐いたのが聞こえた。


「照れる」
「───は、」


 穴が開くとか恥ずかしいとか、天の邪鬼か、とか鬱陶しいとかじゃなく、聞こえた言葉は一言「照れる」で。
 意味がわからない。意味は分かるけど意図が分からない。なんで照れる。
 さっきといい今といい、瀬戸が分からない。いや、瀬戸の言う言葉の意図がよく分からない。


「見られんの嫌いとか?」
「……いや見られンのは慣れてる」


 だよな。誰かしらには見られてるし、強面でもイケメンだし、街中歩けば見られるよな。
 慣れてる発言はちょっとムカツクけど、まあ置いておこう。


「…お前は、」


 中途半端に途切れた言葉に、反らしていた目を向けた。
 瀬戸はいまだに前を向いている。
 何かを言おうかどうか悩んでる素振りはない。ように見える。


「お前は、真っ直ぐ見てくるよな」
「…は?」


 なにを?
 意味が分からずにただ瀬戸の横顔を見ていたら、瀬戸がこっちを向いて目が合った。
 じっと見るその目に、どこか既視感があって。どこで、いつ、誰が。それを考えながらも、その目からは反らさない。


「俺は、そうやって真っ直ぐ見られる事がねぇから」


 なぜだか、祭りの賑わいが遠くに聞こえる。




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