12
見えたその表情は、悲痛のような、怒りのような、寂しそうな。
すぅ、と空気を吸い込む音を聞いた。
「ッふざけんな!、アンタがそんなんだから俺は…っ!」
初めて聞くに等しい、蒼司の上擦った声に唖然とするしかなかった。
感情をここまで乱す蒼司は、今まで見たことがなくて。
会長も目を見開いて硬直。レアだ。
蒼司は無意識だったのか、はっとして苦虫を潰したような表情になり、次にほんのり赤面して。
その変化に驚きを隠せず思わずガン見。
室内はしん、と静まり返る。
どうすりゃいいんだ、と思った瞬間、突然がしっと腕を捕まれ立ち上がらせられて状況に付いていけないまま、出入り口へとぐいぐい引っ張られた。
ビビって強張ったが、蒼司があまりに必死そうで声も出せず、唖然として戸惑う声を上げる三人をそのままに扉を開け放ち、蒼司に連れ出され。
外に出る寸前に振り返ったら、見事なまでに三人の表情は異様だった。
「───そ、…そう、しっ」
「……」
渡り廊下を抜け扉を抜け、二棟の階段から三階に下りた所で蒼司の足が止まった。
強く捕まれた腕はちょっと痺れてる。
「、蒼司?」
「……ごめん」
小さく、本当に小さく呟かれた言葉。するりと手が離れ、力なく垂れる。
「どうした、急に」
「……わかんない」
はあ、と溜め息を吐く蒼司の表情は混乱していて、本当に自分でも分からないんだろう。
「いや、うん。俺こそごめんな、勝手なこと言って」
「違うよ、諒は悪くない。ありがとう、ああして言ってくれて、嬉しいよ」
授業終了だか開始だのチャイムが鳴り響き、どれだけサボったか分からないがまあ一回くらいは何とかなるかと諦めて。
「お昼休みになっちゃったね」
「まじか」
生徒会室は防音なのか、まったくチャイム聞こえなかったんだけど。それとも熱くなりすぎたのか。
まあ、過ぎたもんは仕方ない。
「……とりあえず、昼飯食うか」
「…そうだね」
頭の隅で、会長に喧嘩吹っ掛けたけど明日からイジメ悪化したらどうしよ。
なんて思った。
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