09
俺にとって蒼司は、イケメンで優しくて柔らかくて、元恋人で、自己犠牲型で、好きなやつの為なら出来ることを限界越えてまでやろうとする。
優し過ぎて、逆に不器用で、包み込むのに必死で、自分の時間も投げて相手を安心させて守るのに必死で。
なに考えてんのかなんて分かんない。
でも、想いは、口にして言葉にして伝えて、好きだからという気持ち一直線でそれだけ見て、自分の本音に気付かない。
誰かを好きでいることに安心してるように見える。先の見えない不安に目をそらしてる。
想うのはいいよ、自分の気持ちなんだから。でも相手から強く求められて想われることに蒼司は気付かないし、多分慣れてない。今までの向けられてきた想いとは違う強さに、戸惑ってる。
想われるということは、相手の気持ちを言葉にされなきゃわからないということ。誰彼自分と同じように表現したりしないから、分からなくなる。
蒼司はある意味純粋なんだと思った。
言葉は裏のないそのままで伝えて、受け取るのだってそのまま解釈する。冗談が通じないってのとはまた違う。
「ホントに、何を見てんだよアンタ。ちゃんと見ろよ、分かれよ、気付けよ。なんで蒼司がこんな顔してんのか」
「……!」
じっと俺だけ見ていた会長は気付かなかった。
嫉妬に飲み込まれて、周りが見えなくなって。だからこそ、俺は蒼司を見た。
怒りとも悲しみとも取れない複雑な表情をした蒼司に、俺はその目の揺らぎの正体を知った。
本人が気付かないのは、目の前のことに集中し過ぎて目をそらさなかったから。
心の奥底で、分かれ道になった事に気づかなかったから。
蒼司は混乱してるのかもしれない。
「……蒼司、」
会長の声が呼んでも、蒼司はただ一点を見るだけで反応がない。
「そーし、」
いつの間にか移動していた会計が心配そうに見つめている中で、砕けた呼び方で名前を言って、膝にある手を取った。
一瞬体を強張らせたものの、俺を見た蒼司は首をかしげて微笑んだ。
「蒼司は、会長のことどう思ってんの?」
俺は、いつだか蒼司が俺に聞いたように、真っ直ぐ目を見てそう言った。
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