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08
 

 こいつにこんなこと言われて落ちないヤツいんのかね、と何となく思った。
 顔は間違いなくイケメンだし、優しいし、物腰柔らかいし、適度な強引さとか女子は好きなんじゃなかろうか。
 そもそも中学の時は素晴らしいくらいのモテっぷりだったしな。可愛さあってかっこよさも出てきて、バレンタインデーとかヤバかった気がする。

 俺は蒼司に贈られるチョコレートを貰ってたりしたから、甘い物好きの俺としては文句なしの素晴らしい日だったんだけど。
 そういや、嫉妬とかした覚えないかもしれない。
 モテんのは分かってたし、告白もはっきり断ってんの知ってるし、何より俺にベタベタ引っ付いてたし、毎日好き好き攻撃だし。
 嫉妬する隙っつーか、そんな思いすら抱かないほど隙間なく包まれてた気がする。


 同時に、本当に好きなんだなって思う。他人事みたいに見えるくらい、蒼司の行動は凄い誠実で、真っ直ぐ確かなもので、迷いがなかったから。
 ここまでくると尊敬する。その想いを向けられてんのが自分だとしても。


 ───でも。だけども。


「ずっと諒が好きだよ」


 俺には何でか、今のお前のその言葉が自分自身に言い聞かせているように思えてならないんだ。
 まるで、本当は別の所にある本音を覆い隠しているような、見ないふりをしてるような、そんな揺らぎを感じ取った俺は。


「……うん」


 それでも込もっているその想いを拒絶出来るほど、疑問を投げられるほど、蒼司を理解出来てないから。
 だから、ただ受け取るしか出来ない俺をそんな優しい目で見ないでほしい。
 痛々しいくらいの寂しさも同時に見えてしまってる今は、蒼司の気持ちが他に向きかけていることを素直に喜べないよ。


「そろそろチャイム鳴るね、戻ろうか」
「おう」


 もし、蒼司が俺以外であの熱の込もった目を、想いを向けられる誰かに出逢えたなら。それを蒼司が受け入れて笑って幸せになれるなら。
 あの時別れてよかったんだって、やっと思える気がするんだ。


 

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