中編
21
───商店街は昨日祭りだったらしく、出入り口の周りで屋台の片付けをしている人が多かった。
しかしお店は通常営業のようで買い物をする主婦や遊ぶ子供たちが目に入り、懐かしい雰囲気の駄菓子屋では小中学生やら高校生の姿もあり、その中で大人びた青年も混ざって遊んでいた。
こういった小さな町では子供も大人も混ざって遊ぶのは何となく理解出来て、康之は小さい頃に古いゲームセンターで大人からコインを分けてもらったのを思い出した。
「あ、ゲーセンあるよ康之さん!」
「……入るか」
「うん!」
基本的にトオルの姿や声などは他人には分からないので、現状周りから見れば康之が一人で移動している事になる。
独り言が多い変人として怪しまれないように、なるべく口を動かさず小声でトオルと会話をしながら、康之は一件のゲームセンターに入った。
都会の大きなゲームセンターよりもこじんまりとしたそこは、最新機種ではなく殆どは数十年前のものばかりで、現代の派手さはない。
クレーンゲームの景品は最近のものだったが、機械は使い回しなのか古びているものや少し前の型もあった。
コインゲームや簡易のスロット台、ダンスゲームやカードゲームなども揃っていて、康之はその懐かしさに店内をじっくり回った。
「これ見たことある」
トオルが興味を示したのはレーシングゲームで、流行ったのは10年ほど前の機械だった。その頃は康之も二十歳で、よく友人と競ったものだと誰も使っていないシートを撫でる。
「ね、康之さん、これ出来る?」
「どうだろうな…やってたの10年も前だぞ」
「見たい!」
ゲームセンター内は音が大きい為、多少の声なら周りに聞こえないので口元に手を翳しながらトオルに返事をする。
二十代の初めまではよくやっていたが、地元のゲームセンターで置いてある機械が最新ばかりになると触らなくなっていた。
期待の眼差しを向けてくるトオルを一瞥した康之は、随分長い間あの家から出られなかった事を考えるとそれに応えてやりたくなって、地元では見なくなった機械のシートに座った。
懐かしさが一気に溢れ、ハンドルを握った感覚が当時を思い出させる。
康之を見守るトオルを横に、康之は百円玉を入れた。
三レースある中で最初は操作を忘れて散々だったが、勘を取り戻してきた最終レースでは何とか二位にまで迫り、隣からトオルの興奮した声も途切れ途切れになるほど集中してしまった。
ゲームが終わりシートに背中をつけて溜め息を吐いた康之は、さっきまで騒がしかったトオルの声が無い事に気が付いて咄嗟に横を見た。
寝起きに見たあの虚ろな顔をしたトオルがふわふわと浮いていて、康之がその手を掴むとやはり氷のように冷たい。
触れた刺激で我に返ったトオルは、一瞬呆けた後で康之の方を向いた。
「また飛んでたな」
「みたい…、終わるちょっと前に」
「………」
宿を出て商店街に向かっている時にも一度トオルは意識を飛ばしていて、そこから一時間ほどしか経っていない。
明らかに間隔が短くなっている。
触れた感覚はトオルの意識が戻ると同時に元の冷気に変わっていた。
機械から離れた康之はトオルと手を繋いだままゲームセンターから出て、次はどこに行きたいかを尋ねる康之にトオルはふわりと目の前に流れて笑顔で首を傾げる。
「康之さんお腹すかない?」
いつも通りの明るさで聞き返された康之は、そこで空腹を自覚した。
商店街では飲食に事欠かないが、目移りもしやすい。都会より涼しくとも夏は夏なので冷たいものを求めた康之は、冷やし中華の幟を立てている店に入った。
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