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中編
3
 


 そして目が覚めたら病室。
 文化祭から3日が過ぎていた。
 生徒会長でいることや耐える理由がなくなって、なぜか感情も表情も動かなくなっていた。反動なのかと思った。
 入院中に学園理事が提示した、辞職の話。
 文化祭でも、彼らは戻る素振りすらなく、反省の色もなく、俺が倒れて運ばれた時に初めて顔色を変えたのだと理事は言った。

 このまま続けて、本当にいいのか。
 彼は真剣な顔で問う。
 もう、無理をしなくていいんだよ。
 彼は泣きそうな顔で言う。


 無理をしていたのか、とそこで初めて気付いた。
 ゆっくり休む、というささやかな計画を立てたその内容に役員も他の生徒も文也でさえもいない事にも気付いた。
 ひとりになりたかったのだろうか。散々ひとりだったというのに。
 いや、ひとりではなかった。生徒会の仕事はひとりだったが、時おり現れる愚痴男や、遊ぶだけの役員と転入生たちも生徒会室には来ていた。

 なら、ひとりでのんびりしたいと思ったのか。
 やることがない、暇な時間というものをぼんやりと満喫したかったのか。
 だけどいくら思い出しても、その計画を立てた時に抱いていたであろう楽しみな気持ちも、現状の辛さも、なにも感じ取れなかった。
 どうでもいいものだと思った。

 生徒会長であった時の自分の原動力がなんだったのかすら、忘れてしまった。
 だからもう、意味がないと思ったのだ。生徒会長でいる意味が、もうどこにも見当たらない。


 辞職に同意はした。
 ついでと言って、理事は役員たちや関わった生徒についての処分を淡々と述べる。
 俺は、それを拒否した。
 生徒会は続けていく。会長については好きにすればいいが、生徒会含む転入生と共にいて仕事を放棄したであろう他の委員会の役員らの除籍はせずに、そのまま残してほしいと伝えた。

 理事はもちろん、生徒も納得はしないと分かっている。

 けれど、自らがおかした罪というものは、除籍してしまえば向き合えない。解放、許すと同じことだと思ったのだ。
 ならば、縛り付けてしまえばいい。
 償わせるというのなら、生徒会として、卒業まで役職者で居続けるべきではないかと、俺は理事に言った。
 転入生も、もう学園生徒であって転入生ではないが、彼も退学にするのではなく残すことで、自分が何をして、結果どうなったのかをその身で知るべきだと。
 俺はただの生徒として、卒業まで過ごすと。今までのようには動かないけれど。
 理事はゆっくり何度も頷いた。
 


 退院したのは、10月の中旬だった。
 学園は混乱していたし、生徒たちからは今までみたいに話しかけられたり心配されたりしたが、俺が今までと違う素っ気ない反応に気付くと、なぜか傷付いた顔や悲しそうな顔をして立ち去っていく。
 それから、別人になってしまったと噂が流れたり、生徒会長不在のまま、役員が必死に仕事をこなし、全体の雰囲気も変わってしまったのだと生徒たちは口々に溢した。
 転入生は、文化祭までは必ず誰かと共にいたのに、退院して初めて見つけてからずっと一人で、俯いて過ごしている。
 笑わず喋らず、ただ過ごしている。
 話しも笑えもしないだろう。共に笑い会話する相手がいないのだから。
 俺はそれを見て、そうなったか、と思っただけだった。それだけで、ほかにはなにも感じなかった。

 それから、一年。
 このまま卒業するんだろう、と思いながら過ごしていた日々に現れた、ひとりの不良、槙野新。
 見たことはあっても会話はしたことがない。そんなやつと、古い階段で出会った。
 少しずつ変化している日々に、浮かんでは消える疑問。
 なにか心変わりでもあったのか、と思ったが、聞くことはしなかった。べつに知らなくても問題ない。
 ただ、心地好いと思えるのは、奴が俺と居ても変わらないということ。
 心配、不安、期待、失望。
 昔の俺を望む目。それをにおわす言葉。そういう過去にすがるような空気がないことは、少なくとも俺にとっては心地好いものではあったのだ。


 

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