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中編
かちこち空気→ふわふわ空気。
 

 結局、取り残されたみたいな四人で帰ることになってしまった。
 ていうか、俺と羽田は家近いから一緒に帰れるけど駅と反対方向だし、宇佐見とはいつも校門前で別れるんだよね。



「つか俺ら逆方向だから、一緒には帰れねえけど」



 そんでまた俺の気持ちを代弁した羽田に、もしかしてこいつ心読んでるのかなと思った。こわ。


 未だにファミレス前から動いてない。
 気まずい。



「えー。ちょっと喋ろうぜー」
「なにを話すんだよ」



 本当だよ大森め。空気読んでください。
 学校で会って話せばいいのに、という気持ちが、さっきの打ち上げ中とは意味が違ってモヤモヤと渦巻いた。
 なんか、しつこいな、と思うくらいには。



「な!裕弥もまだ帰りたくないよな!」



 なぜか大森は黙っている宇佐見に同意を求めた。同意っていうか、強制的にしか思えないんだけど。
 そこでまたモヤモヤ。ムカムカ。
 なんなんだこいつ、やっぱ嫌だ。


 見たくない、と視線を大森からファミレスの方に向けると、抑揚ない声が聞こえた。



「……別に。俺は帰る」



 でも、いつもと同じはずなのに、なんだか冷たく聞こえて、ちらっと宇佐見の方に目を向けたら、また、ばちっと合ってしまった。
 いや違う。
 宇佐見はずっとこっちを見てる。俺が目を反らしても、ずっと。

 瞬間、どくりと心臓が波打った。
 突き刺すような目。けれど見ているだけの、なんの感情も読み取れないそれが、やけに鼓動の音を大きくさせる。


 なんでそんなに、見てるの。



 つまんないじゃん、と大森が我が儘を言ってるけど宇佐見は無視して。
 どうしたんだ、と思うと同時、羽田が溜め息を吐いた。



「まったく…、9時には帰るからな」
「おう!ありがとな」



 そう言って妥協した羽田だが、それは大森以外の三人同じ意見だと思う。
 近くの公園まで行くことになって、大森が羽田に飛び付いたせいで前に羽田と大森、後ろに俺と宇佐見が並ぶ事になった。
 嬉しいやら気まずいやら複雑。



「ごめん、宇佐ちゃん。帰りたかった?」
「そうでもない」



 その返事にホッとしながらも、やっぱりどこか冷たく感じて。やっぱり文化祭でダンスしに戻る時の態度が不快にさせたのかなとまた不安になる。



「……」
「……」



 前方で話す二人を見て、隣を見られない。
 まるで初めて会った時みたいに会話が出来ない、話を振れない。最近じゃ、結構会話出来てたのに。
 また無意識に溜め息を吐いたらしく、左側の袖が引かれて弾かれるようにそっちを見れば、宇佐見と目があった。



「亀山は帰りたいのか」
「…っ、そ、うでもないかな」



 初めて、名前を呼ばれた気がした。
 何回か呼ばれてるのかもしれないけど、気づいてないだけだったのか、でも、今、俺の名前を言われた声がやけにはっきりと聞こえてしまった。
 ドキドキする。嬉しい。袖を引っ張るとか、かわいい。見た目男前なのにかわいいとか俺の目はやばいな。


 思わず、今まで放課後でしてたみたいに、ふにゃりと顔が緩んだ。



「宇佐ちゃんと一緒に居られて嬉しい」



 そう言って笑うと、一瞬目を見開いた宇佐見は、どこか安心したように、微かに笑ってくれた。


 嬉しい。嬉しい。
 笑ってくれた。一緒に居てくれる事を、嫌だと思われてない。嬉しい。



 でもその幸せは案外すぐに邪魔された。
 言わずもがな、空気を読まない男、大森である。


 

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あきゅろす。
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