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中編
タイミングの良し悪し。
 

 打ち上げはまるでコンパみたいに、食べ終わった後は席を変えたり、男子は男子、女子は女子と纏まったりバラバラだったりと、賑やかに過ぎていった。
 高坂と俺と羽田は動かなかったけど、委員長のテンションは未だに高くて、色んな席に突撃しては高坂に怒られ。
 高坂は高坂で、仕事の愚痴を生徒に言うという教師らしからぬ、もはやみんなの兄貴となった。笑える。



「8時か。そろそろ帰るぞー」



 腕時計で時間を確認した高坂は、立ち上がって注目を促した。
 楽しいとあっという間だなぁ、と改めて思う。

 会計を済ませる高坂に、みんなでファミレスから出て端で固まってまだ話す。いつも話をしてるけど、やっぱり色んな話が出てくるもんだ。
 その塊から少し離れて、俺はやっぱり羽田とそれを見ていた。



「乙男のお悩みは尽きないな」
「突然過ぎてそれに対する言葉を返せないんだけど」



 思わず吹き出しながらも、二人して視線の先にはクラスメイトたちの集団がいる。
 羽田はずっと分かってた。
 時々思い出しては後悔して、これからあの準備室に行きづらいとか思ってる俺のことを、よく分かってる。



「聞いてやるよ、明日休みだしな」
「えー、なにその仕方ないな、みたいな言い方ー。俺なんも言ってないし」
「バレバレだから」



 まったく。
 そうやってふざけてるくせに、聞いたら聞いたでちゃんと応えてくれたりするんだから、羽田は意地悪だけどイイヤツだね。


 でも、相談するにも、俺自身考えがごちゃごちゃしてるせいで何を言えばいいのか分からないんだ。
 困ったね。


 なんて溜め息を吐いて、ちょっと笑った時だった。



「お、羽田じゃん」
「んあ?、…あぁ、お前か」



 背後から、覚えのある聞きたくない声が耳に飛び込んできた。
 羽田は振り返って、俺にしか聞こえないような声で「タイミング悪いヤツ」と呟いたけど。俺は振り返らない。



「なに、お前ら二人?」
「おう。打ち上げの帰りー。お前らも?」
「まあな」



 二人。
 大森はケラケラ笑いながら、真後ろまで来てる。
 もう一人の声はない。でも、わかった。
 宇佐見も、一緒に居るんだって。



「よーし、ガキども、寄り道しないで帰れよー」



 ファミレスから出てきた高坂の姿と、笑うクラスメイトたちがやけに遠く感じる。
 意識が後ろに持っていかれてるせいだ。



「ついでに一緒に帰ろーぜ」
「何でだよ」



 ほんとだよ。
 俺の心の突っ込みを代弁してくれた羽田。しかし拒否する理由がない。

 いいからいいから、と空気を読まない大森が羽田の肩に腕を回して笑う。
 困ったような呆れたような顔の羽田がこっちを見てきたけど、俺は何も返せなかった。とりあえず、苦笑いした。


 俺はそこから逃げるように、帰っていくクラスメイトを見送る高坂に掛けよって、目の前でヒラヒラ手を振ったら手を叩かれた。暴力反対ー。



「じゃあねー高坂ー」
「亀山ァ、先生つけろやー」
「今さらっ」
「お前ら気を付けて帰れよ」
「うん、センセーもね」



 おう、と返事を貰いそこから歩き出しかけた時、頭の上に大きな手が落ちてきてびっくりして顔を上げたら、高坂がいつもと違う雰囲気で笑ってた。



 

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あきゅろす。
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