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中編
06
 


「美咲、こっちおいで」
「……」


 俺は亮平さんの「おいで」に物凄く弱いと思う。

 夕飯を終えてから一息ついた後、テレビのバラエティーを観ていたら亮平さんが服の袖を引っぱりながらそう言うもんだから、何も言えないままでいると膝を立てている足の間まで誘導され、素直に従った。
 膝を抱えて座ると後ろから抱き締められて肩に顎が乗る。

 自分じゃバラエティーを観ているつもりでも、意識は後ろに持っていかれて内容が全く入ってこない。笑い声ばかり聞こえてくるのに面白さが伝わらない。


「初詣っていつもどこ行ってる?」
「え、あ、駅の反対側ちょっと行ったとこ…」
「ああ、そこなんだ。近いもんな」
「慣れもあるんですけど、流石に夜中に遠出すると補導されるからって」
「そうだよなぁ、」


 言いながら首筋に擦り寄る感覚がして軽く体が跳ねてしまったけれど、それに関して亮平さんは何も言わない。
 鼓動が早まる。
 耳に柔らかい唇が触れた瞬間、咄嗟に首を窄めて逃げるように身動ぎしたら腕が体を固定してきて逃げられなくなった。
 無言じゃなくていつもみたいに笑ってふざけてほしいのに。

 待ち合わせの時間までは二時間弱。それまで耐えろとか無理だ。叫び出したくなる。


「っ、ちょ、亮平さん、ぞわぞわする、」
「んー…」


 どうしたんだろう。なんで急に、いや触れて来るとかじゃれついたりは良くあるけど、いつもは安心させるように喋ったりふざけたりしているから、無言だとどうしたらいいか分からない。

 耳の後ろでリップ音がして肩が上がる。


「美咲、」
「ん、…っ」


 キスしたい、と後ろで囁かれて全身に小さく電気が走った。
 走ったわけでも暴れたわけでもないのに軽く息が上がり、少し沈黙した後に体ごと振り返って胡座になった亮平さんに跨がった。
 嬉しそうに目を細める顔がはっきりと見えて恥ずかしくなるけど、ゆっくり近付いてくる顔に段々と視野が狭くなる。


「……っ、」


 くっつけるだけのキスを何度か繰り返し、眼鏡が外されて唇を舐められると無意識に小さく口が開いてしまう。滑り込む舌は優しくゆっくりと確かめるように動いて、それが頭と腰を特に痺れさせた。

 こんなの無理だ。こんな風にキスしてたら絶対に勃つ。しかもそれがバレる。

 そういう焦りがあるにも関わらず離れようとは考えなかった。寧ろもっとしていたいという欲求ばかりが強くなって、互いの体の間にあった手を首の後ろに回した。
 当然体は密着するし、腰に腕が回ってそれが強く引き寄せるから完全に当たってる気がする。でも、恥ずかしいのに離れられない。
 鳩尾が締め付けられる感覚と一緒に沸き上がってくる想いが今にも吐きそうなくらい喉元にいる。


「ん、ぅ……っ、ふ…」
「……っ美咲、」


 少し離れた唇が動く度に擦れる。微かな呼び掛けに閉じていた目を開くと、ぼやけた視界で亮平さんがじっとこっちを見ているのが分かる。


「これだと待ち合わせ遅れるかも」
「……っ」


 言いながら亮平さんはグッと腰を更に押し付けて、熱を持った自分のそれと同じような状態の塊をその時認識した。
 興奮している。俺と違って経験豊富だと思われる亮平さんが、キスしてただけなのに反応してくれている。


 


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あきゅろす。
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