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中編
05
 


 それから早くも数日が過ぎた大晦日、日中のバイトを終えて店を出ると亮平さんが待っていてくれて、初詣の時間までは年越し蕎麦でも食べながらのんびり特番を観ようか、という話をしながら亮平さんの家へと向かった。

 大晦日は泊まりで居ないという話をした時に両親は夫婦水入らずで過ごすからとニコニコしていたが、直後に「弟か妹出来ちゃうかも」とか冗談でも笑えない事を言っていた。別にどっちでも良いけど相変わらず仲良しで結構な事だ。


「冬休みっていつまでだっけ?」
「週明けですね、5日が金曜日だから」
「じゃあ俺の仕事始めの方が早いか」


 元旦はバイトを休みにしているけど三が日の残り2日間は朝から入ってるし、亮平さんは4日から仕事らしい。でも冬休み終わりの週末があるから、亮平さんもそれを考えているらしい。

 帰宅すると亮平さんはすぐにキッチンへ向かった。既に年越し蕎麦の準備を終わらせていたようだ。


「日中暇だったから作っといたんだ、美咲はゆっくりしてな。お茶飲む?」
「あ、はい。自分でやります」
「じゃあこっち。俺の分もおねがーい」
「はーい」


 洗面所で手を洗ってからキッチンへ立ち、急須と茶葉を受け取ってポットからお湯を入れる。
 蕎麦を茹でている亮平さんは、なんだかいつもより機嫌が良さそうだ。拗ねたりはあっても不機嫌な所は殆ど見ないけど。





「───よし、出来たぞー」
「…美味しそう」
「愛情たっぷりですから」


 丼に盛られた年越し蕎麦は具が沢山入っていて、甘めな汁の香りが食欲を刺激する。
 愛情たっぷり、と笑顔で言った亮平さんに自然と笑みが浮かぶと抜け目無く「かわいい」と言われ、羞恥を誤魔化したいが為に隣に座った亮平さんの肩を叩いてしまった。


「照れ隠し〜」
「うっさいもー…いただきます!」
「はいどーぞ」


 浮かれやがって、と心中で愚痴を吐き手を合わせてはっきり言うと楽しげな声で返事が寄越されたが、箸で具を掴み口に運びながら、浮かれてるのは自分もなのではと思った。

 亮平さんと一緒に居ると、他の人の事を考えない。
 今までだってバイト先の先輩と会話している時も親と居ても幼馴染みの事とか色々と考えていたのに、亮平さんと会うようになって、こうして過ごしている時間は隣でテレビを観ながら蕎麦を啜る人の事ばかりだ。
 初詣に関しては亮平さんも一緒に行くから延長線上でカメや宇佐見の事も浮かぶけれどそれ以外の意識はなくて、非現実的に表すとこの人俺に魔法でも掛けてんじゃねぇかと勘繰るくらいである。

 自分の気持ちがどこにあるのか明確になったら、胸のうちで燻っている罪悪感はどこかへ消えてくれるんだろう。

 そしたらキス以上に進まない事についても疑問しなくなる。
 ていうかこの間からそればっかりだけど俺はそれ以上したいんか。なに考えてんだアホか。はっきりしてねぇくせにふざけんなクソ野郎。
 冬休み前、大森にむっつりとか言われた事を思い出して自分にも腹が立った。



 

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あきゅろす。
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