[携帯モード] [URL送信]

中編
03
 


 時計の音がやけに大きく聞こえる。

 温かい布団と亮平さんの体温で寒さはないが、やっぱり緊張している自分がいた。

 これまで二度ここに泊まっているがキス以外に何かされたりはしない。何かしてほしいのか、と自問してみるけど答えは出てこなかった。
 そもそも亮平さんはゲイじゃない。キスは出来ても「それ以上」は考えてないのかもしれないし、今までの恋愛とか聞いてないけど童貞でない事は確かだ。

 俺がまだ亮平さんとの事を両親に言えない理由の中で、最も割合を占めているのはそこだった。
 同性と付き合うという事は俺も初めてだから何とも言えないし「キス以上の行為」だって未知だけど、同性を好きになるとか恋愛するのは亮平さんにとっての未知だ。
 気持ちの高ぶりが落ち着いた時にやっぱり違うと言われたら、勝手だとは思うけどいくら中途半端な気持ちを抱えていたってショックは受ける。

 異性愛者が同性を本気で好きになるのは難しい。
 だから一般よりも恋愛に臆病になるし警戒もするけれど、同じ同性愛者でも上手く行くとは限らない。
 今のうちにそういうの経験しておいた方がいいのか。トラウマになりそうだから経験しないに越したことはないけど、今ならまだ時間が解決してくれそう。

 なんて急にマイナスな思考が駆け巡って、つい亮平さんの胸元に擦り寄った。


「……!」


 何やってんだ、と思って戻ろうとしたら急に強く抱き込まれて体が固まる。


「…眠れねえの?」
「っ、起こしちゃいましたか、」
「いや、なんか考え込んでるなーって観察してた」
「えっ」


 耳元で囁かないでほしい。つか見てたのかよ。見られてたの全然気付かなかった。
 俺は見えなくても亮平さんは視界が暗さに慣れたら目先の顔くらい認識出来るか、と考えたは良いけど恥ずかしくなってきた。


「美咲、顔上げて」


 小声で掠れた声が耳元で放たれる。しかもそれで名前を呼ばれるのは本気で逃げたくなるくらいしんどい。
 もう無視しようか、なんて一瞬浮かんだが、そろそろと顔を上げると顎を掬われてキスを食らった。

 それはくっつけるだけのキスではなくて、唇が舐められて滑り込んでくる舌で勝手に口が開いてしまうし、ぞわぞわして身動ぎしても体が密着してるから離れられない。
 キスの上手い下手は分からない。でも亮平さんのそれは全身が粟立って頭が痺れるし涙は滲んでくるし、でも気持ち良いと感じるからたぶん上手いんだとは思うけど、自分の経験値の低さから毎度翻弄されるだけだ。
 互いの体に挟まれた手が無意識に亮平さんの服を掴んでいた。
 乱れた呼吸の音とか水っぽい音とかが耳に入ってきて頭がパンクしそう。

 さっきまで渦巻いていたマイナスな思考内容はいつの間にか吹っ飛んでいて、何を考えていたのか忘れてしまった。


「っ、ふ…ぁ、」
「美咲、」


 呼ばれると余計に痺れてくるからやめてほしいのに、その心地好さを知らないから恐いと思っているのかもしれない。
 だって気持ちいいと思ったら強欲な意識が生まれてしまった。まだ続いてほしいという我儘な考えが頭の中にある。
 それは暗に、自分の心の天秤が亮平さんへ傾いているようなものだった。


 

[*←][→#]

56/71ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!