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中編
02
 


 夕方にカメとは解散して、そのまま駅で仕事終わりの亮平さんを待ちながら日中の話題に上がった初詣について考え込んだ。
 そのせいで目の前に来た亮平さんに全く気付かず、頬を突かれて飛び上がりそうになった。


「───初詣かー、美咲が良いなら俺は一緒でも構わないけど」
「ですよね、」


 亮平さんの部屋にお邪魔して一緒に夕飯を食べながらその話を振ると、亮平さんはあっさりと答えを出した。
 まあそうなるよな、と思いながらおかずを口に放り込む。


「敬語抜けないなあ」
「あー…」
「そういう所もカワイイんだけど」
「ご飯中に口説くのやめてもらえませんかね」
「俺は常に美咲を口説いてるよ?」
「開き直ってるし…」


 流石に会うたびに言われると言葉には慣れてくるもので、それ自体に緊張しなくなってきたものの相変わらず声にはやられている。
 たまに不意打ち食らうと叫びそうになるし耳を塞ぐ事もあれど、亮平さんの言葉は常に意味を考える必要もなく真っ直ぐに届くものだから、不安よりも羞恥ばかりが沸き出してくる。
 その素直過ぎる表現ばかりはどうにも、この人本当に日本人かよと思うくらいだ。だけどそれも俺のためであるという事はちゃんと分かっている。


「……じゃあ、初詣一緒に行きますか?」
「そうしよっかな」


 その流れで大晦日はどうするか問われて決めかねると、「一緒にいたいなー」という言葉と甘えるような仕草をした亮平さんに腹立つくらい鳩尾が締め付けられた。
 たまに可愛いことすんの何なの。わざとかよ。見た目カッコいいくせに。


「……元旦は帰るけど、」
「帰るときは送る。楽しみだなー」
「……」


 本当に楽しそうだから何も言えず、黙ってお茶を飲んだ。
 後でカメに言っておかないとな。どうせ宇佐見も一緒だし、ちょっと気まずくなりそうだけど居てくれた方がいい。


 亮平さんと交際し始めてからまだ日もそんなに経っていないからか、自分の気持ちが中途半端だからか、両親にはまだ話をしていない。
 大晦日に泊まりで居なかった事もあるし夜中の初詣は去年からカメを含む他の友達数人で行ったりしているから、別に違和感はないだろうけど。

 いつ話そうか、とは思っている。
 とりあえずこの中途半端な気持ちが無くなって完全に亮平さんへ向く事は前提にあるけれど、現状それがどこなのかは曖昧で、自分でそれに気付けるかも分かっていない。
 ずっと気にかけてくれているから出来れば早めに言えたら良いけど、そもそもこの関係が続くのかすら未知なのだ。


 夕食後は交互にお風呂を済ませ、亮平さんは(半ば強制的に)俺の髪を乾かしてくれて同じ布団に入るわけだが、ぶっちゃけ三度目でも本当に緊張してしまう。
 何されるわけでもなくキスはするけど抱き締めて眠るだけだから、なにをそんな緊張してんだと自嘲するんだけど。


「───電気消すぞー」
「はい、」


 明かりを消すとカーテンの隙間から入る外灯の薄明かりだけで、眼鏡を外すと全く見えない。
 さわり心地の良い毛布を引き寄せているとベッドが軋んで隣に亮平さんが入ってくる。


「美咲、おやすみ」
「ん、…おやすみ」


 触れるだけの軽いキスをすると、亮平さんは俺を抱き枕のようにして静かになった。


 


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