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中編
この気持ちは絆されたわけじゃない。‐01
 


 ───正直言うと、宇佐見と付き合うことになったカメの「実感がない」という発言を、その時は「浮かれてんな」と思っていた。
 けれどあれからそんなに日が経っていないにも関わらず、身を持ってその気持ちだけは理解してしまっている。
 もしかして俺は浮かれてるのだろうか。





「…おーい、羽田、どうしたの?」
「───、あ?」
「ぼけっとしてる」


 唐突に開けた視界の向かい側で、マグカップを両手に首を傾げた幼馴染みが怪訝そうに言った。

 冬休みに入ってクリスマスも過ぎ、年末の忙しない雰囲気が漂う日中のファミレスはなかなかに繁盛している。


「なんかあった?」
「いや、まあ…色々」
「そのうち教えてねー」
「あー…、そのうちな」


 無理に聞き出そうとしてこない辺りカメらしい。その無意識な優しさが今はありがたい。
 温くなったお茶を口に含むと、テーブルに両肘をついてこっちを見るカメに「なんだよ」と聞いたら、幼馴染みはへらりと笑った。


「なんか久々に会った気がするなーって」
「まあ、」


 そういやクリスマスイヴは今まで毎年家に来てクリスマスは自宅で両親と過ごしていたカメだったが、今年のイヴは宇佐見の家で過ごしたので家には来なかったし俺も亮平さんと一緒に居たから、連絡は取り合っていたものの互いに会うのは冬休み前日ぶりだった。


「何だかんだいつも居たからかなー。羽田ってば最近は忙しそうだし」
「お前も宇佐見と会ってんだろ」
「まあねー、ゆうの家族がみんな好い人でさ、泊まりにおいでって言ってくれるからつい甘えちゃって」


 手元に視線を落としながら話すカメの表情は幸せに染まっていて、背凭れに体重を掛けてそれを聞きながら自然と頬が緩んだ。

 宇佐見家は父子家庭で兄弟が多く、交際についてはとても寛容で驚きはしていたがその理由は「息子が恋をした」という事実の方だったらしいから、家族から容認されていると気持ちも楽だろう。
 カメの両親も交際は既に知っているらしい。そっちに関しては昔から構えていない負い目からか「恋愛にあれこれ言う権利は無い」と親に言われたようだが、それでも恋人が出来た事については喜んでくれたらしい。


「正月はどうすんの」
「親が今年は年末年始仕事らしくて、大晦日はゆうの家に誘われてるけど初詣は一緒に行こうよ」
「……そうだな、」


 初詣か。そういや亮平さんと年末年始の話はしてないけど、どうすんだろ。
 仕事納めは今日だって言ってたし、今夜は泊まりで会う予定も入ってるから聞いてみようか。
 毎年初詣は夜中に行くけど、もし亮平さんとも夜中になるなら一緒になるし、別に良いとは思うけど気恥ずかしいというか、いや付き合ってる事についてじゃなくて寧ろ紹介したって問題ないわけだし、亮平さんとは日中でもいいし、でもわざわざ二回行くのもな…。

 急にぐるぐると思考が回り初めて、会わなかった間の出来事を話すカメを眺めながら、しかし内容はあんまり聞き取れなかった。


 


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あきゅろす。
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