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中編
09
 


「美咲、…美咲、好きだ、」
「んぅ、あ、まっ、て…っ」


 頭が痺れる。感情が溢れて制御出来なくなったように繰り返されるキスの連続に、言葉では待てと言えるが体に力が入らなくなる。

 はじめてなのにこれはやばい、と浮かんだ瞬間、そこで気付いてしまった。
 そういえば初めてなんだ、とどこぞの幼馴染みと同じような自覚をして、一気に熱が上がり心臓が暴れ出した。

 暫く繰り返された後に離れ、息継ぎをしていたらするりと頬が撫でられてぞわぞわした。いつの間にか外された眼鏡で視界がぼやけているが、亮平さんの顔が近くにあるから若干見える。


「美咲…本当に、俺でいいの、」


 感慨無量を滲ませる声と言葉に眉が寄る。
 くっつくだけのキスが何度も繰り返される中で、なに言ってんだという気持ちを文句で表した。


「自分で選ばせたくせに…、ん、しかもそれ、こっちのセリフ、っ」
「ん…嬉しくて。ちょっと混乱してるけど、美咲、好きだ」


 亮平さんでもこんな風になるんだ、とキスの嵐を受け入れながら思った。
 自分がそうさせているのかと考えたら恥ずかしくもあれど嬉しくもあって、単純だなと呆れてしまうけれど、分かりやすく伝わってくる気持ちはただ優しかった。


「も、わかっ…わかりましたって、声…やだ、っ、」
「今更。全然言い足りない」
「むりむり死ぬ…!」
「ははは、本当カワイイ。美咲そのまま敬語やめようよ」
「っ…ふぇ、」
「その方が、距離が近くて良い」
「……っ、わ、かっ、た…」
「ん、好き」
「もー…やだ…」


 頭の中から溶けてしまいそうだった。それくらい俺にとって亮平さんの声は凶器で毒で弱点なのかもしれない。


「美咲、俺の恋人になってくれる?」
「……っ、は、い」
「ゆっくりで良いから、俺だけを好きになって」
「ん、」


 抱き締められた温もりが優しくて、伝わる熱と鼓動が心地好かった。

 キスは嫌じゃない。好きと言ってくれた事が嬉しい。ついさっきまで幼馴染みに対する想いや嫉妬や荒れた感情を吐き出していたのに、すぐじゃなくても良いからと言って手を伸ばしてくれた。
 好きな人が他の人を好きだとか嫌に決まってるし、そんなの今までの俺自身と同じなんだから分かってて、だからこそ悩んだし手を取ったらダメだと思った。
 
 だけど互いに互いの気持ちを知っているから、こうして安心しているのかもしれない。
 大丈夫だって思えるのかもしれない。



 亮平さんはゆっくりで良いと言ってくれるけど、でも多分、もしかしたら俺はもう───



本編END


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