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中編
06
 


 そのまま暫く泣いて、落ち着いてきた頃に亮平さんは手を離してくれて体勢を戻した。
 ティッシュ箱を引き寄せて鼻をかみ、深く息を吐き出す。


「……今まで保ってた立場の方が大切だから、それを壊すくらいなら俺はこれで良かったって思うんです」
「うん」
「もし俺が言ったら、アイツは絶対負い目感じる。二人の仲がギクシャクすんのは嫌だし、そのせいで壊したくない。本当、幸せそうに笑うんですよあいつら……勿体ないじゃないですか。 俺は俺で、他に好きな人見つけます」


 鼻を啜りながら笑うと、亮平さんは真顔で「ずっと好きだったのに?」と聞いてくる。


「忘れないといけないから。そりゃ、簡単に見つかるなんて思わないし…そもそも好きになってもらえるかもわかんねぇけど、」


 そのうち好い人と会えるんじゃないかと気楽に構えてます、と自嘲混じりに言うと亮平さんはまた俺の頭を撫でた。


「っ、じゃないと、あいつらと一緒に笑えねぇから……」
「美咲、」
「バカやって、笑って、あいつらからかって、卒業してもたまには会って、っそうやってダチでいたい…っ」
「そうだな」


 止まっていた涙がまた流れて急いで拭うと、その手を取られて目が合う。


「美咲、ごめんな、俺の話聞いてくれる?」
「…っはい、すみません俺ばっかり、」
「違う違う。あのさ、美咲は前に俺が言った言葉覚えてる?」


 前に言った言葉?
 なんだっけ、と無言で目を見ていると亮平さんは「やっぱり忘れてる」と笑った。
 そんな大事なこと言われたっけな…、そういやなんかずっと忘れてることがあったような無かったような、と記憶をほじくり返していた時だった。


「……俺さ、気になってる人がいるって話、したじゃん?」
「え、───…あ、」


 その言葉に、まだ亮平さんと直接会う前に交わした会話がやっと顔を出した。

『───会ってくれなくなるかなって思って言わなかったけど、俺は結構本気で落としにいってるから』
『え?』
『気になる人が居るんだーって話したじゃん』
『え、はい、ん?』
『それハイネくんだから』
『───…はい?』

 普段より視界が開けて、急激に沸騰したような熱が顔に上がってくる。
 あの時、衝撃的過ぎて言葉の意味をちゃんと理解してなかったんだ。なんて言われたのか分からないままいつの間にか忘れていた。


「……思い出した?」
「あ、え、え?あれって、」


 ちゃんと言葉にならなくて噛みまくる俺に、亮平さんは笑みを崩さず向かい側に移動して俺の両手を優しく拾った。
 触れた所も顔も熱い。頭が沸いてんじゃないかと思うくらいだ。


「俺はね、美咲のこと好きだよ。美咲が幼馴染みに片想いしてるみたいに」
「えっ」


 さらりと言われたその言葉はしかし普段の柔らかさは無くて、真っ直ぐ捉えてくる瞳の強さに息が詰まる。
 何を言っているんだ。いや分かってる、その意味は分かるのに状況の把握が追い付いてない。


 


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あきゅろす。
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