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中編
05
 


「───どうぞ、お茶しかないんですけど」
「ありがとう」


 亮平さんから電話が来て、一瞬出ようか迷ったが応答すると何故か家の近くに居ると言われて、最初は出掛けようかという話をしてくれたが俺の気分が向かずに家へと来てもらった。
 部屋に亮平さんが居るのが新鮮で、テーブルにグラスを置いたら名前を呼ばれる。

 ちょいちょい、と手招きをしていて素直に近付くと隣をポンと叩いた。座れってことか。
 ベッドを背凭れにして座布団に座る亮平さんの隣に腰を下ろすと、覗き込むように近付かれて反射的に体が仰け反った。


「っ、?」
「なにがあった?」
「え……、」


 そんな分かりやすかったか。いや、でも自分でも落ち具合の酷さに呆れるくらいだったから、仕方ないのかもしれない。
 申し訳なくて謝ると亮平さんは「大丈夫」と笑みを見せた。

 優しい。なんで亮平さんはこんなに優しくしてくれるんだろう。
 幼馴染みに対する想いとか弱音や本音を唯一詳しく知っている人だから、同情なのかは分からないけれど、ただこのやるせない気持ちを何とかしたくて少し吐き出してしまおうかと思った。


「……俺、ちゃんと言えたんです」
「ん、」


 亮平さんを見られなくて俯いたまま呟くと、横からとんでもなく優しい相槌が来て場違いにもちょっと鳥肌が立った。

 息を飲み込む。


「良かったなって……カメの初恋、叶って良かったって本当にそう思って、……相手だって良いやつなんですよ、あいつのこと大事にしてくれるって思うし……幸せな顔見て、これで良かったって……っ」


 亮平さんはカメと宇佐見が付き合っている事を知っている。ただメッセージで結果を報告しただけだったから、俺がどう思ってるとかそういう話はしていなかった。


「そっか、」


 静かに聞いてくれる亮平さんに、話し出したら止まらなくなってしまう。


「でも、…っ失恋したって思ってる自分に腹が立つ」
「なんで?」
「ショック受けてるって事は、本心じゃ望んでなかったんだって。良かったって思ってる気持ちとかそういうのは嘘で、本当はくっつかなきゃいいとか別れれば良いとか……っそう思ってるって事なんじゃないかって、」


 自分の心が信じられなかった。安心した気持ちも宇佐見に言った言葉も全部取り繕った嘘だったんじゃないかと、そんな気持ちでアイツに良かったなんて言葉を言ったのかと思うとヘドが出る。

 震え始めた声を落ち着かせようと深呼吸をしていたら、ふわりと頭が撫でられて、その瞬間に鼻の奥がつんとするし涙が滲むしで余計に顔が上げられなくなった。


「そりゃあさ、好きな人には誰だってそうだと思うだろ? 好きなのによそ見しててさ、こっち向けってなるし、向かせたいのに躊躇ったり上手くいかなかったり」


 亮平さんの言葉に顔を上げると、優しい眼差しで笑みを浮かべていた。


「……亮平さんもそんなことあったんですか? 上手くいってそう…」
「ぜーんぜん。好きだって言う気も無くて失恋したならこっち向けば良いのに」
「───え?」


 ん?と首を傾げた亮平さんは俺の頭を撫でながら小さく俺を呼ぶ。


「美咲、我慢しなくていいから」
「っ、なに、」
「泣いていいんだよ。悲しくて当然、抱え込んで耐えなくていい」
「……っ、泣かない、です…」
「美咲」


 ぐっと頭が引き寄せられて、肩に額がついた。恥ずかしいのにその優しさと温もりに安心して、泣かないと決めていたのにボロボロと涙が溢れた。


 


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