中編
05
「───じゃあ、連絡する」
「はい。楽しかったです、ありがとうございました」
「こちらこそ楽しかった」
運転席側の窓から手を振る亮平さんへ同じように振り返し、走り去る車を見えなくなるまで眺めて息を吐いた。
外はすっかり暗くて、あれから帰りに寄り道して夕飯を食べてから家の前まで送ってもらった。
会話をしながら今度はゲームセンターとか行こうね、と自然と次の約束を取り付ける辺り手慣れてるというか流石というか。俺にそれやってどうすんだ、とは思ってしまったが、その時に何か忘れてるような気がしたけれど結局まだ思い出せてない。
夕飯の時にラインとアドレス、番号を交換した。追加される事は殆ど無いから何だか新鮮だ。
「ただいま」
「おかえり、みーくん!」
「……なにお前酔ってんのか?」
「ひどい素面だよ!未成年だよ!」
玄関を開けたらスウェット姿の幼馴染みがリビングから駆け寄ってきて、そのテンションにちょっと引いた。
今時高校生で酒飲んだ事あるやつくらい居るだろ、と突っ込みを入れると「みーくん不良!」と頬を膨らませたので容赦なく頬を挟んで空気を抜いた。
「なにそのテンション…」
「だってお前遅いんだもん」
「バイトと変わらねーだろ」
「バイトじゃない日は遅くないですぅ」
「お前は俺の彼女か」
「ワタシと仕事どっちが大事なの!?」
「ゲーム」
「あぁ〜みーくんダメだ即フラれるわ」
「彼女作った事ねぇお前にだけは言われたくない」
この恋愛童貞野郎め。
カメと下らない話をしながらリビングに入ると、両親が「おかえり」と笑みを向けてくれる。
それに返して冷蔵庫からお茶を取り出し、道の駅で土産に買ったお菓子を母に手渡した。
「あら、ありがとう。どこ行ってきたの?」
「千葉」
「みーくん夢の国行ったの?」
「これが夢の国の土産物に見えるか」
「見えませぬ」
包装紙はポップに仕上げられているがイラストは落花生である。枇杷ゼリーと迷ったが暑くもないし名産だし良いかと選んだものだったが、両親は気に入ったようだ。
「風呂入ってくる」
「いってらー」
早速包装紙を開ける母と共にそれを覗き込むカメがフラフラと手を振った。
……萌え袖。
風呂から上がり少しリビングで寛いでから部屋に引っ込み携帯の画面を点けると、亮平さんからメッセージが届いていた。
「寝ないの?」
「寝る」
既に布団を敷いて転がっているカメを跨いでベッドに乗ったら、電気はカメが消してくれた。
液晶の灯りがちょっと眩しい。
【楽しい一日をありがとう、近いうち食事へ拐いに行くわ。おやすみ】
「………」
誘うんじゃねぇんかい。
敢えて拐うなんて言葉を使う亮平さんに口元が緩む。手早く返事を打って送り、消灯させてベッドヘッドに置いた。
───楽しかった。凄く。今までにないくらい、その時その時に頭が一杯だった。
なんでだろうな、と今日過ごした時間を思い出しながら布団を被る。
次はいつ会えるんだろう、なんて自然と考えた自分の深層心理には気付かなかった。
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