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中編
06
 


『今日予定無くなった?』
「あー、いやカメは来てますけど、今もう寝てます。人のベッドで」
『……それハイネくんどこで寝るんだ?』
「あいつに用意してある布団で寝るか布団敷いて蹴落とします」
『本当に蹴落としそうな言い方』


 カラカラとした笑い声に、さっきまで悶々と抱えていた重い気分が消えていく。
 やっぱり何だか最近は特にリョウさんと話をしていると落ち着くな。


「今も出てます?」
『いや、ボイチャだけにした。ハイネくんは入る?』
「あー…ボイチャだけで良いかな…」
『俺の声が恋しくなっちゃった?』
「声っていうか話したいなと思ってはいましたけど…、いやそれも同じか…」


 結局声は聞いてるわけだし、いや声だけじゃないんだけどそれでも意味は変わらないだろうか、と疑問していると返事がない事に気付いて呼び掛けた。


「リョウさん?」
『え、ああ、いやちょっと感極まってた』
「ええ? ちょっとなのか極まってるのかどっちですか」
『本当そうだわ。いやさ、片想いの子と一緒に居るのに俺と話したいって思ってくれたんだなーって』
「確かにそうですけど、無理って分かってるんだから別に…」


 片想いとはいえ既に失恋しているようなものだ。衝動だけで過つよりもこの関係が長く続いてくれる方が良いに決まってる。


「……諦められんならさっさと捨てたいですよ」
『出会いがない?』
「そうそうないですよ、同じ系統の人は」
『ハイネくんが気付いて無いだけで、実は出会ってたりして』
「ははっ、出会ってたら良いけど、俺が気付かなかったら意味ないじゃないですか」
『そうだけどさー。気付けたら楽になれそう?』
「どうだろ…まだ分かんないです」


 中学からずるずると片想いしている。別の人との出会いとか気持ちの移行とか経験したことがなくて、実際そうなったとしてカメへの片想いが諦められるのかどうかは正直わからない。
 恋愛感情はカメにしか抱いたことがないから考えたことすら無かった。
 諦められたら楽になれるんだろうか。
 そんな出会いがこの先あるだろうか。

 両親は、ゲイである人が俺だけではない事を教えてくれた。
 溢れんばかりに居る人混みの中で一握り、いやひとつまみ程度だとしても同じ悩みを抱えていても恋をして居る人がいて、求めている人がいて。その中で本当にお互い大切に出来るパートナーは探せば必ず見つかるものだと両親は言ってくれた。


「でも、探せば必ず見つかるって親は言ってくれたんで、俺が動けば不毛な気分は晴らせるのかなとは思います」
『いい親御さんだよなあ。探さなければ見つからないし、意識次第ってことか』
「そういうことです。でもまあ、あいつより好きになるかどうかですよね」
『急にドライだな』
「はははっ」


 諦めたいという気持ちが本当にあるなら、俺の意識次第でどうにでもなるはず。
 好きだという想いは確かにあるし、カメと同じくらいかそれ以上の感情を抱ける出会いがこの先あってもなくても、別の誰かを好きになれるなら変えられる。
 簡単に捨てられる大きさではないにしろ、一生涯で幼馴染みに対する不毛な片想いは両親泣かせである。恋人くらいは紹介してやりたい。


 


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あきゅろす。
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