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中編
02
 


 昼休みの終わり間近にカメはトイレに立ち、それを見送った後に深く息を吐きながら廊下側に背を向けたまま窓枠に腕を乗せる。


「───…で、大森くんはなにしてんだ?」
「……っえ、」


 カメに飲まれてもう殆ど残ってない紅茶を少しずつ飲み、頭を後ろへ倒すと無駄に背の高いアホがこちらを見下ろしていた。


「バレバレだから」
「あー、まじかー」


 宇佐見と同じクラスであり、俺が知る限りで宇佐見と最も親しいと言える大森は、腹立たしい事にどうやらカメに対して片想いをしているらしい。
 しかも入学式の日から。
 そのくせ女子と付き合ったりはしていたみたいだけど、すぐ別れるとか。俺を見習え。


「怪し過ぎ。普通に出来ねぇのか」
「恥ずかしい」
「今のお前が一番恥ずかしい」


 腹いせに空の紙パックを潰して投げ付けると、大森は「人に物投げちゃダメ!」と真面目な事を言った。
 幼馴染みに対して校内ストーカーしてる奴に真面目な注意とかされたくない。


「最近さぁ、裕弥が楽しそうなんだよ」
「へえ」


 あのデフォルトで無表情な奴からどうやって感情の変化を読み取っているのか些か不思議ではあるが、まあ付き合いが長いだけあって大森にはその変化が分かるのだろう。
 何だかんだ俺もカメの変化には敏感だしな。惚れた目もあるかもしれないし、あいつが単純なのもまた一理だが。


「放課後ってカメちゃんと一緒に居るんだよなあ」
「みたいだな」
「裕弥め……俺の」
「お前のじゃない」
「当たり強くない?せめて最後まで言わせて」
「腹立つから言わせねえ」
「もー…、あっ戻ってきた」


 焦ったような声を上げてすぐ足早に去った大森は、俺の投げた紙パックをそのまま持って行った。
 ごみ捨てが省けたな、と性悪な事を考えながら、でかい図体で逃げる背中を冷めた目で見送った。


「羽田、頭から落ちるよー」
「落ちねえよ」
「なに見てたの?」
「デカイ小心者の逃走」
「はい?」


 どういうこと?と笑うカメにそれ以上は言わず、チャイムと同時に入ってきた教師を見て前を向いた。


 ───大森はいつかカメに告白するんだろうか。
 玉砕覚悟とはよく言うが、玉砕するくらいなら友達のままがいい。今を、この関係を壊したくはない。
 ……本当に小心者なのは俺の方か。

 カメはただ新しい友達が出来たことに喜んでいるだけかもしれない。宇佐見が楽しそうだという話も、同じようにそうなのかもしれない。
 ただ自分の恋愛対象が同性だから、仲良くなったからといって恋に発展するのではないかという不安を抱いてるだけだ。
 楽しい事は優先したいだろう。

 古典の授業を聞きながら、ひたすら自分に言い聞かせた。
 この不安や嫉妬は無駄なものだと。


 捨ててしまえたら楽になれるのに。
 他の人を好きになれたら、こんな不毛で無駄で意味のないただ息苦しく自分を蝕む感情は無くなるんだろうか。


 

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