中編 03 ───五月になっても花粉をつけたお客さんも多い店内でバイト中、マスクは外せないしクシャミや鼻水も相変わらずだけど、仕事前に買った薬が効いているのか日中よりは大分楽になっていた。 花粉症コーナーで品出しをしていると、段ボールの向こうに目を向けた先で大学生くらいの常連さんを見つけた。 大体同じタイミングで高性能マスクを着け始めていたから、この人も花粉症なのかなとは思っていたが特に声を掛けたりはしてない。 段ボールから商品を取り下の棚に入れていると、すぐ横で誰かが立ち止まったので見上げたらその常連さんだった。 どうやら悩んでいる様子で、端から端まで吟味している。最近は種類も増えたし、症状やその度合い、体質で効果も変わるから合う合わないは使わないと分からないので自分もよく悩んでいたのを思い出す。 バイトを始めてからはとりあえず新商品は買ったりしてる。 「───あの、」 「、っはい」 上から聞こえた声に一瞬気が付けなくて見上げたら、常連さんと目が合って慌てて立ち上がる。 「これ、何が一番効きます?」 「程度によりますね、ここに書いてある症状の中で当てはまるものとその軽重の差とか」 「あー…今のところ鼻と喉かな」 「目は大丈夫なんです?」 「うん」 「じゃあ…」 当てはまる項目は軽めだったので、棚に目を向け幾つか商品を手に取って目の前で見せた。 「これと、こっちは眠くならない方で、赤い箱は水が無くても飲めます。マスクはこれがオススメですね───」 「詳しいな」 「自分も花粉症なんで、色々試してて」 「すごいね。 こっちの新しいやつは?」 「ちょっと高いけど効きますよ。朝起きて飲むと夜まで大丈夫で、寝る前に飲んだら寝てる時苦しくなりませんでした」 「へえ、朝起きて飲んだら眠くなる?」 「他と比べたらならないですね。長時間効くし使い勝手は良いですよ」 「じゃあこれにしよ。ありがとう」 「いえ、ありがとうございます」 見上げた先で目を細めていて笑みを浮かべているように感じ、自然に笑顔を返すと彼は商品をカゴに入れて他のコーナーへと向かった。 初めてちゃんと会話した。 その日もレジに立っていると彼が来て、いつもの煙草をついでに買い、去り際に「ありがとね」と言ってくれた。 驚いて慌ててしまい上手くは返せなかった。 初めて沢山話したな。鼻声でもやっぱ良い声をしていたけど、もう少し低めで聞いてみたいなんて失礼な事を考えながら帰宅した。 飯を食って風呂を済ませ、自室に戻って体を伸ばしながらPC用のデスクに向かう。 入学祝いに親からお下がりを貰ったそれは比較的まだ新しくて性能も文句なく、ずっとやりたかったオンラインゲームを始めて見事にハマっている。 [*←][→#] [戻る] |