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中編
31
 



 眩しい夏の照り付けが地上の温度を上げ、照り返しは都会よりも弱かったがそれでも暑かった。
 町のターミナルに着いた夜行バスは、一人の乗客を降ろし足早に唸りながら走り去って行く。それを見届けてから康之は周囲を見渡した。

 トオルが居なくなって一年が過ぎ、再び夏になって町に訪れる事が出来た。仕事も落ち着いて、有休を取った時に倉科課長は「随分と気に入ったんですね」と嬉しそうだった。
 今度は酒でも土産にしようと考えながら人気のない道を歩いていると、宿の方から見覚えのある姿を発見した。相手も康之に気が付いて小走りに近付いてくる。



「やっさん! 久しぶり」
「ああ、随分と時間がかかったよ」
「大丈夫だよ」



 一年前に出会い色々と手伝ってくれた青年、晃は袖を肩まで捲り上げ均等の取れた腕の筋肉は若々しく男らしさを見せていた。
 暑さに弱く夏場は外出が極端に減り肌が白い康之と比べると、晃の焼けた肌は黒く感じられる。

 秋の終わりに掛かってきた電話から、康之と晃は時折連絡を取っていた。



「俺はこれから仕事あるから一緒には行けないけど、たぶんもう起きてると思うよ」
「……そうか、いや、いいんだ。一人でも」
「一人の方がいいんでしょー」
「どうせ察してるだろ」
「分かってるよ、落ち着いたら後で連絡ちょうだい。仕事終わったら顔見に行く予定もあるから」
「ああ、……ありがとうな」
「いいよ、俺も嬉しいから」



 じゃあまた、と手を振って小走りに行ってしまった晃の背中を見送り、康之は病院の方へと歩き出した。










『───町中がその話で持ちきりなんだ。あの時の子が起きたーって、家族みたいに嬉しそうにさ』
「……十二年も経って起きるものなんだな」
『俺もびっくりしてさ、で、面会は目が覚めたら本人次第って事になってるから、出来たら会ってくる』
「そうか…」
『連絡するよ、なるべく早く』
「ありがとう」





『やっさん、やっさん聞いて!』
「落ち着け晃くん、どうした」
『ああいやごめん…、こんばんは』
「こんばんは」
『トオルだった! 会ってすぐは忘れてたみたいだけど、話したら思い出したみたいで! トオルだよやっさん!』
「───…そ、か…そうか。よかった…」
『やっさんいつ来る!?』
「すぐにでも行きたいが…無理だ。仕事を放る事は出来ない」
『休みの前の日とかは?』
「いや…準備があるからそれも合わせると来年になる」
『準備? 仕事の?』
「あいつの使う物揃える」
『! やっさん…かーっこいー』
「急に茶化すな恥ずかしくなるから」
『持ち帰る気満々じゃん』
「状況によりけりだけどな…」
『そこら辺は大丈夫だと思うよ。本人と話してみれば分かる』
「……そうだな、」
『来るとき連絡ちょうだいよ、待ってるから』




 病院まではそう時間も掛からなかった。
 雲に遮られない直射日光は体に堪えるが、沸き立つ胸のざわめきを感じながら足早に病院の中に入ると、涼しさに溜め息が出る。



 


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