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中編
23
 



 時期的に夏休みと被ったからか町では若者が楽しげに遊びを謳歌していて、康之は隣で同じように楽しげなトオルを連れて商店街ではない方を散策した。
 工場や無人販売所が点々とあり、その殆どは畑で、住宅は一部の区画に纏まっていたり一軒家が疎らに点在している。
 町は山と森に囲まれて海は見えなかったし車の通りもそこそこあるのに空気は澄んでいた。


 トオルは山や森に近付きたがった。匂いや温度は分からないが、鮮やかな緑や茶色の景色が好きらしく康之に風景写真を強請っては「帰ったらボードに貼ってね」と声を弾ませる。
 写真にトオルは写らない。康之は何度か携帯を向けてシャッターを切ったものの、画像は歪みも無く綺麗に景色だけを写す。
 霊体なら何かしら現れそうだと思っていた康之は、それから幾度と景色を眺める透けた体と風景にカメラを向けた。



「点いてないテレビの画面にも写らないんだよー」
「鏡越しには見えるんだけどな」
「不思議だよね」



 霊に関する事は不可思議が多い。
 心霊写真や映像などは作り物が殆どのようだしテレビで見るものは特に信憑性がなく、もしあのテレビで出される写真のようになるなら霊体であるトオルでも何かしらありそうなものだが違うらしい。

 撮影した画像を確認する康之の横から覗き込むトオルは、気に入った画像を指差してそれ以外は削除する。
 現像したら何か写るかもしれない、と一緒に撮影した数枚は残しておいた。



「腹減ったな」
「ここの途中で定食屋さんあったよ!」



 坂を下りて舗装された道に出るとしばらくは畑が続き、その先に数軒のお店がある。その中の一軒に定食屋を見つけていたトオルに、康之は嬉々として案内する浮いた体を眺めながら歩いた。
 時おり高めに浮いて回転したり康之の周りを浮遊しては楽しそうに笑う。


 トオルは相変わらず意識を飛ばす。
 間隔は一時間で変動もなく、突然静かになるから康之が気付かない事もない。
 定食屋での昼食中も向かい側で虚ろになる姿を観察してはいたものの、ただ一時間置きに意識が無くなる以外で変化は見られなかった。

 昼食を済ませて再び歩き出した康之は、ふと視界に入った目立つ建物に意識を向けた。



「……病院、行ってみるか」
「え、行くの?」



 トオルは昨夜病院に近づいた時に感じた違和を思い出し、歩を進める康之に後ろから被さる形で抱き着いた。



「昼間だから怖くないだろ」
「うーん、そうじゃなくてさ、昨日夜に行った時、引っ張られたから」
「は?」



 立ち止まった康之はトオルに何で言わなかった、と不機嫌そうな声で言うと背後の冷気はふわりと離れ目の前に流れてくる。
 その表情は良いとは言えない。



「病院の近く行くと何かこう…ぐいーって引っ張られるみたいでね、怖い」
「……」



 昨夜の「怖い」は単純に雰囲気ではなく、病院の傍で起こった奇妙な感覚がトオルにとっての恐怖だった。
 あまり近づきたくはないと言うトオルだが、康之はその病院に何かヒントがあるのではないかと思っていた。しかし嫌がる相手に無理を強いるのも好かない。



「ごめんね、何か嫌なんだ。病院はあっきーが行ってくれるって言ってたからちょっと安心してた」
「分かった」



 縋るように抱き着いてきたトオルの冷気を感じながら、康之は人通りがない事を確認してその頭を撫でた。



 その後は病院を避けて町の散策を続け、晃に会えたのは夜行バス到着予定時間の五時間前だった。



 


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