中編
07
「ひまだーなぁ」
「なぁ」
いや語尾だけおうむ返しとか可愛いから翔君。
常連の常連さんの対応を終えてしまえば、また暇な時間に戻る。
やることがない。本当にやることがない。どうしてくれようこの暇さ。
てなわけで。
「今日はどんな髪型にすっかなー」
「んー」
イスに座って携帯弄りをしている翔君の背後に立ち、長めの髪を梳く。
サラッサラなんだけど。今日は出勤して来たときから若干ポニーテール気味だった髪は、サラサラなのにしっとり。
さわり心地たまらん。
髪を纏めていたゴムを取り、手櫛で撫で付けるように指を通して思案する。
「めんどうなのはやだ」
「おーけー」
帰ってからアレコレすんのが面倒なのは知ってるから、スプレーとかワックスとかはナシ。
いつか盛りてーな。
「そのうち盛らせて」
「仕事中はむり」
「じゃ遊び行こ」
「おー」
「え、まじで」
「おー」
然り気無い誘いを承諾されました。
予想外。
スタッフ間じゃ飲みとか結構行ってるけど、いつも翔君参加しないからあんま出掛けたりしないのかと思って言えなかったんだよな。
「よしゃ。どこ行くかなー」
「来月なんかどっかでイベントあった」
「どっかってどこだよ」
「忘れた」
忘れたとか可愛いわバカヤロウ。
つーか来月にイベントなんてあったかな。
「イベントってかデートしよデート」
「なんでそのチョイス」
「いーじゃん、デート」
「はいはい」
茶髪を持ち上げて全体的に横にかき集めながら言うと、抑揚なく返された。
待ち合わせして髪弄っては面倒だから家誘うかなー。
「家来てよ。髪を盛らせろ」
「はいはい」
お互い独り暮らしだからどっちでもいいけど、道具持ち歩くのダルいしな。
サイドを残して、ツインテール片方バージョンで耳真上まで持ち上げ、纏めてゴムでお団子にしてから飛び出した毛先を広げる。
孔雀の尾みたいだ。
てか可愛いなオイ。
「よしでけたー」
「でけたー」
抑揚のなさが逆に可愛いわバカ。
つか俺、翔君に可愛いしか思ってない。大丈夫か俺。可愛いからいっか。
「首涼しい」
「お、いい感じか」
「いい感じ」
お許し貰いました。やったー。
翔君の髪弄りが終わって手持ち無沙汰になってしまったんだが。
「あ、もうすぐ3時」
「まじか、じゃ行くか」
「ん」
携帯の時計で気づいた翔君に言われ、3時から始まるらしい映画を見るために立ち上がる。
内線が来る子機とリモコンを忘れずにポケットに押し込んで、二階の空室に向かうことにした。
「良いところで電話来ないように祈っといてよ、翔くん」
「やだ」
ひどい。
こういう時に内線来たら、軽いメシなら寂しく一人で済ませなきゃならん。
受付の呼び出しだと更に寂しいんだけど。
その間、翔君一人でテレビ観賞だしさー。ま、いいけど。
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