中編
55
結局友人達と会っている間は『古仲南について』の話を主に、意見交換や現状説明を聞いたものの、しかし何もはっきりしないまま帰宅する事になった。
その場に彼女を呼ぼうかという話にもなったが、今日は遅くまでバイトだという情報を女友達が持っていて、後日改めるか大学に行ったときに、とその日の話は終わっている。
帰宅してすぐに風呂を済ませ、ソファで髪を拭きながら頭の中で話を整理することにした。
───古仲南は早見弘之と高校2年の終わりから交際を始めた。
当時高校1年では友人関係で、最初に好意を持っていたのは早見の方だったと思う。
俺が早見に片想いをしていたからか、2年の始め辺りにその相談を持ちかけられたのをはっきりと覚えている。
それから古仲さんの方から俺に早見の事で相談をしてきて、前から気になっていた、という話を聞いている。
付き合う前まではどちらも気持ちはあった、と相談を受けていた自分は考えていたけれど、あの時既に彼女は俺と早見の関係を疑っていた事になる。
しかし早見が古仲さんに好意があると知って、普通ならそれが誤解だと分かるし同性だから有り得ないと考えるのも一般的な思考と言える。
告白をしたのも早見だし、それを喜んで受け入れたのは古仲さんだ。嬉しそうな結果報告もお互いから聞いていたからこそ、現状が不可解なのだ。
しかも今日女友達が言っていた事を思い出すと、ますます分からなくなる。
付き合っている間に彼女の気持ちが変わっていった、と考えるのが自然だが、それならそうと言えばいいだけだし、はっきり言えるような二人だったと思っていた。
けれど彼女は何故か、俺と早見が恋人であるという疑惑を持ち出した。
最もややこしいのがそこである。
本人はそれを間違いないと思っているようだが、事実無根であり話を聞く限りでは勘違いを越えて妄想の域に達している。
女友達は、古仲さんの話を聞いていると早見ではなく俺に対して好意を持っているように聞こえると言っていた。
話を聞いた女友達がそう受け取ってしまっただけかもしれないし、本人がどういう表現をしていたのかも分からない。
あまりにも面倒臭い話だ。けれどこれをこのままどうでもいいと投げ出したら、きっと友人達も彼女の周りも関わる全ての人達に迷惑で、当事者になっている早見と俺と古仲さん自身も面倒な事になる。
やっと変わったはずなのに、自分の中で変化があっても部外からそれは許さないと言われている気持ちになってしまう。
唐突に、久住さんと会いたくなった。
土と葉の匂いで満たされるあの町と、青いツナギと頭にタオルを巻いた彼に、無性に会いたくなって膝を抱えた。
「……いっそ暴露するか」
自分の性癖を彼女に話して、いつからかは嘘にするがずっと片想いしている相手が居るのだと言ってしまおうか。
でもそしたら、今の友達は友達じゃなくなってしまう。正直言って暴露する程の価値が彼女にあるとは思えない。対価が大きすぎる。今まで必死に隠しながら築いてきた人生を、あっさりと捨てるようなものだ。
外皮が複雑なだけで内側は単純であってほしい、と願うしかない気がしてくる。
とにかく、彼女が何をどう考えてこんな面倒な話になったのか聞かなければ。この件はなるべく早く終わらせたい。
夏期休業が終わるまでの間、何度か友人達と会ったりバイトを再開したりと、あの町に行く前のような生活に戻っていった。
久住さんが言った「また今度」という言葉がずっと気になっているものの、おかしな三角関係をさっさと解消させたい気持ちを抱いたまま大学の始業を迎えた。
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