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中編
45
 


 翌朝はやはり5時に目が覚めた。
 向こうへ帰っても暫くは同じ時間に起きるだろうな、と予想して、心地好い空気を吸い込んでから洗面所へと足を運ぶ。


 畑仕事と朝食の手伝いをしてから、朝食の最中に御主人が「祭りの翌日だから晃は片付けにつれ回されているだろうな」と言っていて、内心ほっとする半面落ち込んでいる自分を面倒なヤツだと心中で嘲笑った。


 滞在の最終日だからか気持ちがざわめいている。
 商店街では子供達と遊んで、昼食には蕎麦屋と久住さんの実家である定食屋にも寄って職場へのお土産を買って、早めに戻って老夫婦と沢山話をしようと計画を立てながら支度を済ませて宿所を出た。


 照り付ける日差しは強かったが相変わらず木陰は涼しく、歩く場所を選びながら商店街へとたどり着く。
 既に屋台は無くなっていたが、他にも片付けが沢山あるのだろう。子供達ばかりが商店街で目立っていた。

 そこに一件だけ店を構えている駄菓子屋に訪れると、昨日話しかけてきてくれた子供達が気が付いて駆け寄ってくる。



「おはよ、楓ちゃん!」
「本当に来てくれたんだっ」
「だからオレ来るって言ったろー」
「こっちこっち!」



 数人の小学生と中学生に引っ張られ、駄菓子屋の店先のベンチにいた高校生たちが保護者のように見守る中で他の子供が店で買った玩具を広げて遊んでいた。
 地元では最新のコンパクトなゲーム機で遊ぶ子供ばかりを見てきたからか、独楽や面子を楽しむ姿が新鮮だった。
 木のパズルや、台を傾けてボールを転がす迷路などもあって、どれも普段やらない玩具なので興味が湧く。

 子供たちに手本を見せてもらい、一緒になって考えながら進ませる玩具はとても面白くて、物理的な遊びが長く愛される理由を実感した。
 電子ゲームも確かに面白い。頭を使うものや学習に役立つものなどもあるがその種類は数えきれないほど。
 次々に新作が出るそれらとの違いは明らかなのに、原始的な物理玩具でもその楽しさにあまり差は感じられなかった。


 この面白さを知っているか否かで大きな変化はないのかもしれないが、知っている事で得られるものは少なくないだろうとも思う。


 懐かしい駄菓子を買い込んで、その菓子でも楽しみながら昼頃まで子供達と過ごした。
 昼食に帰る彼らに別れを告げて、菓子では満たされなかった空腹を満たすために商店街の端にある蕎麦屋へと向かった。

 店を訪れると、蕎麦好きな店主は喜んで迎えてくれ、お勧めの蕎麦を頼むと店主は聞き覚えのある蕎麦の良さを語り始めたが、あまりにも楽しそうだったので黙って聞いた。
 蕎麦にはカットスイカがついてきて、体にこもった熱を冷ましてくれる。



「楓ちゃん、昨日の祭りは楽しかったか?」
「とても楽しかったです。良い思い出になりました」



 それは良かった、と満足げに笑う店主と少し会話をして、見覚えのある蕎麦饅頭をいくつか頂いてから店を出た。
 すぐ近くに久住さんの実家の定食屋があり、空腹は満たされていたが甘味が欲しくなっていたのもあり戸を開くと、花が咲いたような笑顔で美幸さんが迎えてくれる。


 御主人のハリーさんは息子と共に片付けに駆り出されているらしく、「お客さんはあまり来ないから暇だった」と笑う美幸さんに促されて席についた。



「何か、甘いものはありますか?」
「季節限定の手作りフルーツゼリーで良かったら、すぐに出せますよ」



 両手を合わせて微笑む彼女に、そのゼリーをお願いすると本当にすぐ出てきて、向かいの椅子に美幸さんが座った。



「今日で最後なんだっけ、折角会えたのに寂しくなるわ」
「はい、俺もそう思います」



 両手で頬杖をつく美幸さんは本当に寂しそうに眉を下げていて、終わりの近さを改めて感じ本心で返事をした。



 

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