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中編
30
 


 俺に気が付いたひとりが「あっきーの友達?」と無邪気に笑い掛けてきた。



「いえ、三神さんの宿所でお世話になってます」
「じっさんのお客さん。でも俺ら友達みたいなもんだよなー」
「え、そうなんですか?」
「えっ違うの」
「あっきーフラれてやんの、ウケる!」
「ねえお兄さんどっから来たの?」



 友達かどうか聞いてきた子とは別の男の子が、人好きする笑顔で言った。
 見慣れた地元の高校生とかとは違うなと思いながら、東京からだと答えると、彼らは一様に「都会だ」と目を瞬かせる。



「いーなぁ、一回くらい行ってみたい」
「ディズニーランドなら修学旅行で行っただろ」
「夢の国じゃなくて、原宿とか池袋とかあるじゃん!」
「田舎者はお断りだろ」
「あっきーだって田舎者でしょー」



 男の子よりも女の子の方が東京に憧れが強いようで、お洒落な街に行きたいという気持ちがあるのだろう。
 例を上げた場所を思い出すと、人が多くて窮屈な気持ちになってしまった。



「向こうに住みたいとか思います?」
「えー、どうだろ。行ったことないから分かんないけど、テレビで見ると凄い人居るよね」
「賑わっている所を映していますから、静かな所もあります」



 ここほど和やかではないけれど、とは言わずに、憧れや夢を壊さないように笑うと「やっぱそうなんだ」とテレビで流れる有名どころの人の多さには納得したらしい。



「あっきーは東京に行ったことあるんだよねー」
「俺はこっちのが好きだけどなぁ」
「えーあたしらのことー?」
「いや違う。女子高生には興味ありませーん」
「あっ、じゃあオレらか!」
「馬鹿かお前らは」



 仲良いなあ、と五人の戯れを野外から見ていて、胸のうちの靄は払う。
 ここの住人は皆が友達や家族のように接していて、余所者の自分にも笑い掛けてきてくれる彼らはこの町だから気さくでまっすぐな良い子に育ったのかもしれない。

 地元ではそうはいかないだろうけど、彼らが向こうへ遊びに行った時に悲しく寂しい思いをしないことを願った。



 四人組と別れてゲームセンターを後にして商店街を歩けば、道行く人達は皆久住さんや俺に声を掛けてくれる。
 慣れない雰囲気に戸惑いもあれど、その空気はすんなりと呼吸が出来るものだった。



「晃ー!神輿の予行すんぞー」



 商店街の一角で土方のような格好をした男性が久住さんを呼び、こちらに近付いてくると俺を見て「楓ちゃんも見ていくか?」と当然のように笑ってくれた。



「あ…いえ、とても気になりますが遠慮しておきます…ありがとうございます。お祭りで見るのを楽しみにしてます」
「そんな堅くなんないでもイイって!んなら本番でオヤジ達がカッコいい姿を見せてやるか、な、晃!」
「俺はオヤジじゃねって。楓、配達手伝ってくれてありがと、宿所まで送れなくてごめんな」



 主人に肩を組まれて苦笑いする久住さんは、本当に申し訳なさそうに言ってきたので首を振った。



「大丈夫です。練習頑張ってください」
「うん、やる気出た」
「晃は単純だなぁオイ」
「うっせ。じゃあな、こういう変なオヤジには気を付けろよー」
「おめーが一番あぶねーっての」
「なんでだよ」



 手をふってから歩いていく二人の戯れを聞いて少し笑い、そういえば宿所の御主人がおやつにスイカを食べようと言っていたのを思い出して帰り道を歩いた。

 色々なお店から声をかけてもらい、たまにおやつを貰って、気付けば買い物をしたみたいに手にはお菓子が詰まった袋が付いてきていた。

 明日は屋台を出すお店も多いので、そこで沢山買おうかと計画を立てながら宿所へと戻ると、縁側から出てきた御主人と鉢合わせる。



「おかえり、一人で戻ってきたのか?」
「はい、久住さんはお神輿の練習に引っ張られて行きました」



 御主人は笑顔で頷くと縁側でスイカを食べようと誘ってくれたので、居間に袋を置き御夫人が切り分けてくれたスイカを持って老夫婦と一緒に縁側に移動した。


 

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あきゅろす。
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