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中編
06
 


 夏休みというのはどこも時期が同じなのか、小中学生や高校生もちらほら見つけた。
 古い駄菓子屋には子供達が楽しそうに菓子を選び、おもちゃで勝負をしている。
 都会とは違っても暑い事に変わりはないので、見つけたかき氷屋に立ち寄った。



「いらっしゃい、今日も暑いね」
「入道雲が綺麗でしたよ」
「ここらじゃよく見えるだろ、高いのは山くらいだからなあ」
「昨日初めて来ました」
「なるほど、でも観光するとこなんかないだろ?」
「いや、観光というよりは息抜きですね」
「そりゃいいや。なんにするよ」
「御主人のおすすめは?」
「宇治抹茶どうよ」
「じゃあ、それをお願いします」
「はいよー」



 気さくな店主はかき氷屋というよりは焼き鳥でも売っていそうな見た目だったが、かき氷を作る手は繊細で、ふわりと雲のように盛り上がった氷に濃い緑のシロップと上につぶ餡を乗せていた。
 おまけだ、とガラスの器の乗った盆にカットスイカを追加してくれた。



「ありがとうございます」
「んな堅苦しくなくていいって、息抜きなんだから楽にしとけ」
「これ癖なので、まあそこは目を瞑って下さい。いただきます」
「ゆっくりしていきな」



 白い歯を見せて笑う店主に笑みを返し、店内の端へと移動した。客は少ないが、誰もが店主と親しげに会話を楽しんでいて嫌ではない賑やかさがあった。

 店主おすすめのかき氷は甘すぎず苦味もあって、つぶ餡によく合っている。
 スイカは瑞々しくシロップや餡に負けない違った甘さで、どちらも飲み物のように口内で溶けていく。


 テレビはない。スマートフォンなどを弄る人も殆ど見ない、人間同士の声と言葉のやり取りが多く笑い声が耐えずそこにはあって、一週間のうちまた来ようと思った。
 スイカとかき氷で、体内に籠っていた熱を冷ましてくれる。



「美味しかったです、ご馳走さま。また来ますね」
「おう、いつでも来なよ」



 食器を返して店主に声を掛けると、今度は土産にと店で焼いているらしいパンを手渡された。
 礼を言って店を出ると、冷えた体に日差しが丁度良く馴染む。
 時折雑貨屋を覗きながら商店街を抜けると、当然のように田畑が広がり、林も目立っている。

 この暑さでは貰った菓子パンが痛んでしまうかもしれないと、食べる場所を探して石畳がある林へと入った。
 しばらく歩くと林を抜け、目の前に湖が広がった。



「……涼しい」



 日差しが当たるのに涼しく感じて、湖の手前で腰を下ろした。
 一応持ってきていたスマートフォンで写真を撮り、トモダチから来ていたメッセージには目を通さずに鞄に戻す。
 カメラ持ってくれば良かったな、と思いながらも景色を脳に焼き付けるように見つめ、白いビニールから菓子パンを取り出した。

 香ばしい色の丸いそれはあんぱんで、割ってみると小豆餡が顔を見せる。小豆が好きなのかなと先ほどの店を思い出して笑う。


 かぶりつけばつぶ餡がたっぷりと口の中に入り込み、コンビニやスーパーで売っているあんぱんとの違いを知る。
 荒く潰れた粒はしっとりとして、食べ慣れていたあんぱんよりも甘さが控えめになっていた。個人的にはこっちの方が好きだ。

 あんぱんを食べ切って、商店街の古い自販機で買ったお茶を飲み一息ついた。

 車の音も工事の音もない、風に撫でられた木々の音と鳥や蝉の声ばかりで、人工的な騒がしさがないだけでこんなに静かに感じるのかと耳を傾ける。
 柔らかい雑草が辺りを満たして、何となく上半身をそこに倒したら真っ青な空が視界を埋めた。


 


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