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中編
夜勤の二人‐01
 


「───ねぇ今度飲みに行こうって、一緒に、二人で。ねえ、いまフリーなんでしょ?俺もそうだし問題ないってば。ていうか本当に本気なんだって、ねぇ聞いてる?」
「うっさい黙れ近寄るな」
「その蔑む目本当好き。もっと言って」
「マジ帰れ辞めろ他の仕事行け」
「やだ。ヒロが居るから辞めない。付き合ってくれるなら考える」
「付き合わないっつってんだろふざけんな」



 なんでこうなった。



 その日は宮田君と小山君が同じ時間に入るようになって三回目だった。
 どんなタイミングなのか俺と翔君がシフトに入っている時は、宮田君と擦れ違いにもならず夜勤も会わなかったため、一週間以上顔を合わせなくて、小山君と擦れ違いのシフトでもアクションがなく、宮田君もlineで何も言わなかったから気付かなかった。
 だけど状況はとんでもなくおかしな方向に曲がって、なんでこうなったと思わざるを得ないくらいで、けれども以前マネージャーとした会話が思い出されたら、結果こう思ってしまった。



 ───なにこの子、小山君こわい。である。




 久々に会うなあ、と思いながらも翔君と出勤して事務所に入ったら、目の前で宮田君に纏わり付く小山君が居ました。
 事務所には今日出勤の夕勤メンツが揃っていて、慣れた様子でそれを眺めている。

 なにこれ。



「あっ、由貴さん翔さんおはようございます!」
「おはよ……なにこれ」



 引っ付く小山君を容赦なく押し退けてこっちに駆け寄ってきた宮田君に言うと、心底不本意そうに「自分でも分からない」と溜め息を吐いた。
 翔君は一度だけ宮田君と小山君を見て、何のリアクションも見せずにいつも通り荷物を置きに行ったが、多分実際はわりと驚いていると思う。瞬きが多かったから。



「聞いてよユッキー、小山君ね、宮っちの事ずーっと好きだったんだってえ」
「……は?」
「なんかー、高校の時に好きになってから忘れられなくて、色んな人と付き合ってみたけど納得出来なくて、たまたまここ受けて入ったら宮っち居て、しばらく混乱してから考えて考えてこうなったみたーい」
「いや河瀬さんちょっとなに言ってるか分からん」



 えー、と笑いながら言った河瀬さんは、本当に面白そうである。

 宮田君の話を聞いて整理すると、高校で告白して断られてその時は気にしなかったみたいだが、卒業して大学生になり、離れて関わらなくなってからよく思い出すようになった。
 そして大学で男と付き合うようになって更に毎日のように思い出して、気付いたら今まで抱かなかったくらいの気持ちが生まれた。それに混乱しながらも、たまたまこの職場の面接して受かり、出勤してきて夜勤に宮田君が居たことに驚いたが歓喜。けれど夕勤と夜勤では擦れ違いで、夜勤がたまに夕勤に入ることを知って、でも宮田君は夜勤のままで、ならば夕勤に入るようになるにはどうしたらいいのか、夕勤に入るようにしたらいいのでは、と考えた結果、無害そうな翔君に焦点を当てて、夕勤交代に賭けたらしい。

 どんな賭けだよ。単純にその思考と行動がすげぇわ。
 クビになるかも、とは思ったらしいが、そうなったらなったで無理矢理にでも連絡先を交換しようと考えていたらしい。



「…なにそれ小山君こわい」
「本当それです。ていうか今まで恋愛に本気本気って言ってたくせに初めての気持ちとか馬鹿ですよね、アホですよね、本当しつこいんですよ勘弁してほしい。しつこい癖に仕事はちゃんとやるから厄介」



 後ろで何か言っている小山君を綺麗にスルーしながら、宮田君はまた溜め息を吐いた。



「あー…だからマネージャー何も言わないのか」
「なんか、面白いからそのままで良いよなって言われました」
「……マネージャー…、安心したんだろうなぁ」
「だと思います。心労が減るならと納得しようとしているんですが、マジでしつこいんですよ」
「つか小山君ってなに、マゾかなんかなの」
「なんか初日はあんなんじゃなかったんですけど、一回しつこくて口悪くなっちゃって容赦なく罵声浴びせたら、あんなんなりました」
「……こわ」



 小山君をあんなん呼ばわりしているが、呼ばれている本人は大層満足そうである。逆効果じゃねえか。



 


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