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中編
12
 


「繁盛時なんて四人入るのよ。いらねーだろ馬鹿かよ他の部屋やれよ、とは思うんだけどさー、四人でやっとユッキーとカワちゃんの清掃時間にギリ追い付くって感じで、フロント一人でやってる間文句垂れ流しよねー。おっちゃんと木内さんと小山くんの三人だとめっちゃ早いんだけどねぇ」



 繁盛時はフロント業務で拘束される上に、いくら詰まっていても清掃に何人も部屋に居れば邪魔だし必要もないからなるべく清掃には行かないようにしている、と河瀬さんは日頃から決めている。
 そこに間違いはないし、事実なのでそれで良いとマネージャーも了解していることなので、河瀬さんの愚痴にはいつも耳を傾けている。



「あんだけ入っててアメニティ不足とか完全清掃なはずの部屋が汚いとかお客さんに言われるとさー、申し訳ない気持ちと、何でそうなってるんだって腹立たしさが同時に来るしさー、苦情はフロントで清掃担当は食らわないじゃない?それが一番理不尽よね、立場とかお客さんには関係ないし」
「…今度また皆で飲みに行くか」
「本当?マネージャー太っ腹ー、おっちゃんと木内さんと白石さんも呼ばなきゃ」
「愚痴大会開くつもりか」
「いつものことじゃーん」



 クリスマスや年末年始、連休など以外は特に大きなイベントはないけれど、忙しい時はある。日頃から鬱憤を溜めている人たちで集まれば当然のように愚痴が飛び交うのは仕方ないと思う。
 その鬱憤晴らしに付き合うマネージャーは出来た上司である。
 マネージャーがその場に居れば皆なるべく動き回るしな。


 飲み会の決定で上機嫌になった河瀬さんは愚痴を止めて、引き継ぎに移った。



「ユッキー、カワちゃんごめんねぇ、二、三ははがしになるかもしれない」
「良いよ、そんな入ってないし」
「あとはタオルとか殆ど出来てないと思う。さっきリネン見て回ったけどスカスカだったから」
「おっけー」



 夜中では基本的にやることは少ないので、リネン室にアメニティ補充なんかは良い暇潰しになる。
 夕勤も暇で何もやってないってなれば呆れる所だが、今日は中々に回転があったようだし、部屋も汚かったらしいので許容範囲だ。






 0時になって夕勤が上がり、マネージャーは3時まで残るようでフロントでパソコンを弄っている。

 宿泊切替前に退室した部屋を翔君と一緒にさくさく終わらせて事務所に戻ると、微かに紫煙の匂いがした。
 休憩所兼喫煙所から出てきたマネージャーは、さっきの話だけど、と思い出したように言った。



「ああ、寧ろ、なんでしたっけ」
「安心したような、若干喜んでるような感じだった」
「安心?喜ぶ?なんで」
「分からん。詳しいことは夕勤には言ってないから情報収集出来ないが、少し不気味」
「確かに。小山くん分からん」
「……宮が夕勤になったから?」



 静かに言った翔君に、マネージャーと目をあわせた。
 いやいやまさかそんな、あれだけ翔君について色々憶測を立てさせておいて宮田君が夕勤になって嬉しい、は流石に。と思ったけど、ふと思い出した事がある。



「宮のこと覚えてるとか?」
「何の話だ」



 首を傾げたマネージャーに、夕方夜勤メンツでご飯を食べた時の話を軽くすると、不思議そうな顔をした。



「なんで河内に行ったんだ?」
「それは分かりませんけど、一回告白した相手だって考えたら…これ予想ですけど、当たったら小山くん策士で恐いけど、宮が夕勤になるようにした、とか?」
「……」
「……」
「…いやないだろ」
「…ですよねー」
「強ち間違いでもないかもしれない」
「翔君こわいこと言わないでー…」
「上手く乗せられた感が否めないな」
「マネージャーも納得しないでー…」



 まさかそんなことないだろ流石に、と頭では思うが、その反面可能性が浮上してしまうとどうにも恐ろしい。


 そしてその答えは、近いうちに知ることとなった。



 


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あきゅろす。
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