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中編
11
 


「とりあえず、しばらく夜勤固定に戻るなら俺は特にやることはないかな。翔君は?」
「二人きりにならない」
「よくできました」



 スプーンをくわえる翔君の頭を撫でると、若干手に頭を押し付けてきたので可愛すぎて撫で回したくなったが周りの目があるので我慢した。



「由貴さん飼育員みたいになってますけど」
「えっ」
「私は由貴ちゃんが保護者に見える」
「…そんなに意味は変わらない気がする」
「変わらないって、翔さん否定しないんですね…」
「初めて会った時から保護者っぽかったし」
「そうなんですか」
「そうねえ…、由貴ちゃんが構いに構ってたのは覚えてる」
「それって今とあまり大差ないような…」



 確かに大差ないけども。
 だって可愛いんだもの仕方ない。








 デザートも食べて出勤時間が近付いてきたので解散することに。結局話が弾んで遅くなってしまった。しかも、交際祝いだと言って並木さんと宮田君が奢ってくれた。



「ありがとう、ご馳走さまでした」
「ご馳走さまでした」
「いいのいいの。誘ったのはこっちだし、お祝い兼ねてね」
「仕事頑張ってください。気を付けて」



 手を振る二人に振り返して、自転車に乗って職場へ向かった。
 対策という対策は立てなかったが、情報の共有があるのでそれぞれ考える事は出来る。俺も翔君も同じように、職場環境と互いの関係を守る事に努めようとする気持ちは変わらないのだ。

 宮田君は小山君と接触する回数が増えるが、こっちはこっちで様子見しますと言ってくれたので手厚い協力に感謝で一杯である。



 少し早い時間だったが、休憩喫煙所でのんびりしていようかと話をしながら事務所に入る。
 中は静かで皆は上に居るのかな、と思っていたら、フロントの所からマネージャーが出てきた。



「「おはようございます」」
「おう、」



 何だかマネージャーはどこか腑に落ちない様子で、どうかしたのか聞くと首をかしげながら言った。



「来月のシフトを出したんだが、小山が変な反応だった」
「変?」



 シフトは今日の朝に貼ったらしい。予定通り翔君は夜勤固定に戻り宮田君が週一夕勤になったのだけど、小山君の反応を見ていると、翔君と宮田君の変更に関しては何も言わず、疑問している風でもなかったのだとか。

 マネージャーは腕を組んで業務用冷凍庫に寄り掛かり、訝しげに首を捻る。



「何だか寧ろ───」
「あれー、二人とも早いねぇ」



 階段を下りてくる音がして言葉を止めたマネージャーと一緒に横を見ると、夕勤の姐さんが居た。
 河瀬さんは子機の携帯端末を充電器に置くと、終わらない、と愚痴を溢した。



「今日やたら部屋が汚いお客ばっかりでさぁ、時間かかってしょうがない」
「一部屋に三人入ってなかったか」
「効率悪いのよ。おっちゃんと小山君と木内さんは良いんだけどねー、他はダメ」



 マネージャーはフロントの画面で様子を見ていたらしく、清掃部屋に入る人数と終わる時間に疑問していたが、河瀬さんの言葉に悩ましげに相槌を打った。

 古株のおっちゃんと木内さんは効率よく進めるので仕事は早いが、まさかまだ入って三ヶ月も経っていない小山くんにその他の従業員が劣るとは。



「スパルタで鍛え直したい所なんだけど、仕事が出来ないとか覚えが悪いんじゃなくてただ効率が悪いだけだから、今更言っても聞かないのよねぇ。 お話するのは結構なんだけどさぁ、仕事しながら出来ないのかって思うわー」
「まあ、それが出来る人と出来ない人は居るからね」



 イライラしちゃって逃げてきた、と笑う河瀬さんは、しかし自分のやるべき仕事は全部済ませて来たのだろう。
 愚痴は言うが手を抜かない辺り、労いたいところである。
 夕勤は最も人数が多い。朝も少なくはないが、夕勤の時間帯が最も回転が早いからなるべく早く部屋を開けるために人数を増やしているのだけど、一部屋に三人当てればかなり早く清掃は終わる。はずなのに夜勤の二人清掃の時より倍の時間が掛かるのだから不思議である。



 


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あきゅろす。
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