中編
09
食事が進んで一息ついた所で、今まで静かに話を聞いていた並木さんが口を開いた。
「そういえば、うちの息子が小山君と同じ大学みたいなの」
「えっ」
「っ、まじですか」
またしても唐突な衝撃に水を吹きそうになったが、宮田君は手遅れだったらしく口を拭いている。
並木さんの息子さんは成人とは聞いていた。確かに大学に通っているのも知っているが、まさか小山君と同じとは。
「つい最近ね、息子がサークルの集まりで撮った写真を見せてくれたんだけど、その中に小山君が居て。名前聞いたら同じだし、うちの従業員かもー、って言ったら、ホテルの清掃の仕事してるって聞いてたみたいで」
「小山君じゃん…」
「意外な繋がり」
翔君も驚いたらしく、気の抜けた声を出している。
しかし並木さんは更に衝撃を加えてきた。
「なんか、男と付き合ってる話しか聞かないとか言っててね、つい詳しく教えてって詰め寄ったんだけど」
「どゆこと」
「大学で変わったんですかね」
高校では異性ばかりで同性との話はなかったが、大学は逆になった。
並木さんの息子さん曰く、最近はフリーらしいけれど、それまでは女より男とつるむばかりで、堂々と一部の仲間には男を恋人として紹介していたのだとか。
しかし長続きしない。落とすだけ落として、二、三ヵ月で別れてしまうらしい。
「癖は治ってない…。で、今は翔さんに片想い中だからフリーってことですよね」
「そうだね。時期も被ってるし」
「二股はしないんだなぁ小山くん」
「高校の時に、二股は主義じゃないとか言ってました」
ある意味二股より厄介だけどな。
毎回本気で二股はしない、けれど熱しやすく冷めやすい。釣った魚に餌はやらない。恋人持ちから奪い取るもアリ。
「どうする翔君」
「どうしようかね」
とりあえず想いを向けられている翔君に話を振ってみたが、言うわりに悩んでいる雰囲気はない。
しかもデザートメニュー見てる。
「パフェ食べたいの?」
「どっちにしようかと」
「らしいっちゃらしいけど、翔君あまり気にしてないよね」
翔君の様子に並木さんは笑って、「私はヨーグルトサンデーにしよう」とこちらもこちらで相変わらずである。
「…なんか、安心しますね」
「宮は不安?」
翔君がメニューから宮田君に目を向け声をかけると、宮田君は少し、と苦笑して言った。
なついてくれている、心配してくれている。だからこそ不安を抱えてしまうのだろう。
「大丈夫だよ、宮。割り込ませたりしないし、翔君が落ちることもない。落とさせません」
「由貴ちゃんかっこいー」
「並木さん…なんでそんな楽しそうなのよ」
「安心してるからかなあ」
───由貴ちゃんと翔君ってね、例え喧嘩することがあったとしても、今みたいにどちらかが誰かに好意を向けられていても決して離れたりしないという確信があるの。
並木さんはそう言って頷くから、今まで半透明だった繋がりが確かにはっきり姿を見せたような気がした。
離れる事はない。絶対なんてないかもしれないけれど、無いようにするのが繋がり続ける為の努力なのだ。
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