中編
08
「……小山くんの事で」
少し言い辛そうな声に首をかしげる。
宮田君の夕勤デビューは来週からだし、会ってもすれ違いなだけだと思っていたけど何かあったのか。
注文を済ませて料理が来る間に粗方の話は聞いておきたいと言えば、宮田君は了解してくれた。
「小山くんとなんかあった?」
「なんかあったわけじゃないんですけど、言っておきたい事はあります」
並木さんも翔君も黙ってドリンクバーから持ってきた飲み物に口をつけているが、聞く姿勢は取っているのでそのまま促した。
宮田君は「大袈裟な話じゃないんですけど」と前置きをした上で話をはじめる。
「初対面みたいな態度取ってますけど、俺、小山君と高校から知り合いなんです」
「え」
「へえ」
大学は違いますけど、と苦笑いした宮田君は、首を撫でながら言う。
「高校でつるんでた友達だったんですけど、小山君は結構モテるタイプで、恋人がいない時期あったのかってくらい、まあ、わりと短期間で相手変わってました」
「へー、意外。そういう感じなんだ」
俺から見れば、小山君は今翔君に真っ直ぐだから一途で長続きするタイプだと思ってた。
告白は自分からするが、フったりフラれたりで気付くと相手が変わっている事が多いらしい。
それでも今まで同性は一度も見たことも聞いたこともなくて、知っている限り全員異性の恋人がいた。
「本人が言うには全員に本気らしいんですけど…小山君、追いかけるのが好きみたいで、付き合うまでは積極的で全力なんですけど、付き合ってからはなんというか、」
「釣った魚に餌はやらないタイプ?」
「そう、それ」
はー、なるほど。
駆け引きというか、落ちるまでの刺激が好きなんだろうな。
ゲーム感覚と言うか、まあ、本気だと言うのは本当だろうけど落ちてからは熱が落ち着いて、好きは好きだがマンネリしやすいって感じかな。
「小山君の中では異性同性関係なく、好きだと思ったらアタックするっていう癖がついているんじゃないかなと」
「なーるほどね」
「高校じゃずっとそんな感じで、悪い奴じゃないんだけど、こと恋愛に関しては好きじゃなくて。実は俺、高校の時あいつに告白されたことがあるんですよ」
衝撃的な事実を告げた宮田君は、真面目な顔で唖然としている俺と翔君を見た。
「まあばっさり振りましたけど。恋する度に本気だから厄介なんですよあいつ。しかも好きになった相手に恋人が居ても関係なく落として別れさせたりすることもありましたね」
俺が心配なのはそこなんです、と宮田君は言って、しょんぼりした顔をした。
いつだか、俺と翔君の間に割り込んできそうだと宮田君が言った事を思い出す。同時に、俺自身も小山君が素直や純粋か策士な面かと危惧していたが、それは後者が当たりらしい。
確かに厄介だな、と溜め息が出そうになった時、注文した料理が運ばれてきて一先ず食べることにした。
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