中編
07
頭上に置いた携帯の振動音で意識が浮上した。
アラーム以外は常にマナーモードなので、着信だとすぐに気付く。
お互いに寝返りをしたからか腕枕ではなかったが、向かい合わせにはなっていて自然と微笑みが出てくる。
うつ伏せになって携帯をタップすると、夜勤用のグループにメッセージが入っている。
「……16時半」
六時間は寝たか。
眠気はあるが、宮田君からのlineに目を通すと文とおはようのスタンプだった。
それが目覚まし代わりになったらしい。隣で丸くなる翔君の髪を触りながら、返事のおはようスタンプを入れておく。
集まりは18時だが、お互いに支度が早いので充分な余裕がある。
場所も職場に向かう途中にあるファミレスに決まっているし、ここから割りと近場にあるので20分前を目安に出ればいい。
もう少し微睡みを味わおうかなと枕に頭を落として向かい合うと、薄目の翔君と目が合った。
「……びっくりした」
「んー…」
もぞもぞと動く翔君の愛らしさにときめいたが、そこから更に俺に抱き着いて来たことで萌えた。
この可愛い過ぎる生き物は何なんだ、と何度目かの自問をし、恋人だという自答を済ませてから遠慮なく抱き締め返した。
幸せは歩いて来ないだから歩いて行くんだね、という歌が何故か頭に浮かんで、歩み寄る事の大切さを勝手に実感した。自分でも意味が分からなかったが、寝ぼけているんだろうなと自己解決しておく。
出る時間が近づくと、二人で布団から這い出して顔を洗い軽く歯を磨く。
今日も夜勤は翔君となので、一応動きやすい服に着替えて準備を終わらせた。玄関でドアを開ける前に翔君がキスを仕掛けてきたから驚いたが、然り気無い場面で幸せの種を植え付ける翔君が好きだ。
二人に会ったら確実に「周りに花が咲いている」とか言われそうだが、この際それでも構わないくらいには満たされている。
「並木さん、家族のご飯は良いのかな」
自転車で目的地まで走っていると、並走した翔君が前を向いたまま言った。
確かに、並木さんはいつも家族で夕食を摂っていると言っていたし、時間的にも気になる所である。
「会ったら聞いてみるか」
「うん」
道が細くなって後ろへ流れた翔君を横目で見てから、近付いてきたファミレスが視界に入ってきた。
「翔さん、由貴さん、おはよーございます!」
「おはよー」
ファミレスに入ると、近くの四人席には既に宮田君と並木さんがいて、宮田君が手を振っている。
「おはよう」
「おはよ。並木さん、家のご飯は良いんですか?」
「あぁ、大丈夫。ありがと。旦那は飲み会で、子供も友達とご飯食べるって言ってたからね」
なるほど、と納得して席に座る。
隣に翔君が座り、店員さんが水とお手拭きを持ってきてくれた。
「宮田君がお腹空いてるみたいだし、頼んじゃおう」
並木さんの言葉に頷いてメニューを広げると、翔君が覗き込んでくるので真ん中辺りに置いた。
「そういや、なんで急にご飯に?」
どれにしようか選びながら聞くと、宮田君は決まっているのか水を飲んでいて、明後日の方向を見て言った。
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