中編
06
───18時くらいに四人でご飯行こう、というメッセージは並木さんで、その後宮田君が賛成のスタンプを送っている。
時間はついさっき。並木さんはまだしも宮田君早起きだな。
休憩所にいるはずの翔君は見ているんだろうか、と考えていると、開きっぱなしだった画面に新たなメッセージが出た。
「……っ」
瞬間に込み上げた笑いを耐えて、画面に映るシュールな猫のイラストスタンプを見る。
見てたのね、と思いつつもスタンプを選び送ると、並木さんから喜びのスタンプが帰ってくる。
暇なのかあの人は。
夜勤面子のlineはスタンプばかり。
ちゃんと会話もあるが、スタンプにある文で成立してしまう場合が多いからだ。
以前並木さんが、若い人と会話をしていると自分も若返った気持ちになる、と楽しそうに言っていたのを思い出す。
確か42歳で一人息子は既に成人していて共働きながらも家族仲が良いと聞いた。
並木さんの性格かなあ、と画面で交わされる宮田君と並木さんのスタンプ会話を見ながら癒される。
夜勤は癒し組だなあ。
早番と挨拶を交わして外に出ると、暖かい陽射しと穏やかな風が肌を撫で付けた。
いいお出掛け日和だなと爽やかな空気を吸い込んで、自転車に向かう翔君を追いかける。
当然のように帰宅方向は同じで、回数が増えても嬉しくなる。
夕方の食事の話をしながら自転車をこいで、帰宅するとすぐに風呂に入るのが常になっているけれど、最近は面倒だからと翔君が一緒に入ってくるもんだから個人的には落ち着くのに精一杯だ。気持ちと体は別物のように変化するのを毎度実感する。
それでも、男二人でいっぱいいっぱいな風呂場で会話しながら浴槽で足を伸ばして交差させて浸かるのは、悪くない。
風呂好きな翔君は、一緒に入るようになってから入浴剤を家に置いている。
効能があるものだったりおまけ付きの面白いものだったり、どこで見つけてくるのか謎なものだったりと、バラエティに富んでいて飽きない。
入浴剤は普段から使わなかったから新鮮だ。
時折甘ったるくて仕方なかったり、意味があるのかすら分からないものがあったりするけれど、それも二人で見つけたら凄く面白くて笑いの種になる。
ゆっくり浸かって温まると、大抵同じタイミングで上がる。
全身から湯気をたてる翔君の可愛さも、お互いの髪を拭くのも、自然と当たり前になっていることが幸せだ。
「寝るかー」
「ん、」
気だるさに体を伸ばすと、翔君は既に半分眠りに入っているのか緩慢な足取りでベッドに潜り込んで壁際に転がった。
なにこのクソ可愛い生物。
薄目を開けた翔君が、掛け布団を持ち上げてこっちを見る。早く入れってか。
緩んだ口元をそのままに隣に転がり向かい合わせになると、体の間にある左腕を持ち上げられ腕枕状態になったまま布団が掛けられて翔君に抱き着かれた。
……なにこの可愛すぎる生き物。
鎖骨辺りに額をくっつけた翔君はすぐに寝入ってしまったが、苦しくないのか気になるところだ。
抱き締めたいが窒息させそうだから隙間を開けて頭を撫でる。
馴染みあるコンディショナーの香りがして、少し下にある頭に鼻を近付けて目を閉じた。
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