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中編
05
 


 3時にマネージャーが帰ってから、夕勤に宮田君が入るかもしれない、と翔君に言えば少し驚いたように「そうなの」と瞬きをした。

 俺みたいに不安や心配はないみたいだけど、代わってもらうことへの申し訳なさがあるらしい。
 「帰ったら宮に連絡入れよう」と呟く翔君の髪を撫でながらこの悩みが杞憂であることを願った。



 それからは入室ばかりで退室は殆どなく、4時くらいにコンビニでご飯を調達してのんびり食べて、たまに退室した部屋の清掃をのんびり済ませる。
 3時まではマネージャーが居たから何だかんだ暇と言っても5時を過ぎて、モーニングの時間になる前に外の空気を吸おうと二人で屋上に行くことにした。

 うっすら青みがさしてきた空は綺麗で空気が清々しい。深呼吸して、眼下を走る大型車を眺める。
 隣に立つ翔君を見るとぼんやり空を見上げていて、小さく開いた口が可愛い。

 顔を上げたまま少し頭を俺の方に向けて目をあわせた翔君は、小さく俺の名前を呼んだ。朝方の外で見る翔君がとても綺麗に見えて息を飲むと、目を細めて翔君は笑う。



「キスしたい」
「!、……俺も」



 唐突で予想外な要求に目を見張るも、抗えない欲を素直に返した。
 上げていた頭を正面に戻した翔君は、体ごと俺に向かい流れるように顔を寄せてきて、伸ばされ触れた手に指を絡めながら柔らかな唇を食らう。
 お互いに薄く目を開いたまま、時折笑ってはまたキスをする。

 好きだ。
 じわりと出てきた想いは水みたいに湧き出して。



「…好き。翔くん好き」
「んぅ…、ゆ、き」



 腰から体を引き寄せると背中に回る手が愛しい。
 少し離れた唇の間から聞こえた、好きだという声も言葉も俺を溶かしてしまう。

 額を合わせて互いに微笑むと、手を繋いだまま事務所に戻る。
 細く骨張っている男のものでも、翔君のそれは大好きな手で、その指先も愛でていたい。全身で全身を愛でたい。


 屋上に行く前と特に変わりはない事務所の様子に、もう少しあのままでも良かったかなぁと笑ったら、「帰ったらね」と然り気無く爆弾を投下されて撃沈した。
 帰ったら良いのか。帰ったらまたして良いのか。
 というか当たり前に俺ん家に帰ることになってるのがむず痒いというか、嬉しくて愛しい。過剰なそれは痛いくらいだ。



「んじゃ、帰ったらいっぱいちゅーしてやろー」
「うん」
「……うん、て…。もーちょっとくらい照れてよ可愛いけどさぁ」
「照れた勢いで言う由貴が可愛い」
「もうやめて羞恥死する」



 本当に、翔君の返り討ちとか効果抜群だから。そんな微笑み向けられたら、早く帰って酸欠になるまでキスで潰したくなる。
 つっても酸欠に関してはお互い様になるんだろうけど。


 屋上での余韻が続いて、お互いに他のことをしていても指で遊んだり絡めたり、ただ手に触れるだけなのに幸福感が増していく。
 モーニングを片付ける頃には余韻は消えていたけれど、手が空けば触れるという行為が癖になってしまった。



 上がりの時間が近付いて早番が出勤し出して来た時、帰り支度をしていると携帯が震えた。



「……ん?」



 画面を開くと、夜勤メンバーだけのグループを作ったそこに吹き出しがふたつ。
 このタイミングで送ってくるのは宮田君か夜勤の母である並木さんくらいだが、メッセージは二人から来てきた。



 

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