中編
04
「様子見はするが、さっき伝えたように河内の夕勤はしばらく───」
「あ、河内さんおはようございます!」
マネージャーの声を遮って、事務所の方から問題の当事者の声が聞こえた。
小さく挨拶を返した翔君はのんびりと然り気無くフロントに入ってきて、俺とマネージャーと目を合わせてから三人揃って目をそらす。
抵抗感があるのか小山くんはフロントに入って来ないものの、翔君と話したそうにしている雰囲気が視界の端から伝わる。
マネージャー居なかったらめっちゃ話し掛けて来たかもしれないな。
夕勤メンバーが次々降りてきて、0時が近付くと全員下に集まった。
翔君はずっとフロントの奥に居るため、覗き込まないと見えないので俺は一先ず事務所に戻って仕込みやら引き継ぎを確認することにした。
特に変わったこともなく時間が変わり、他のメンバーと違って少ししょんぼりした様子で小山くんはタイムカードを切っている。
こりゃあ確かにマネージャーも気づくよな、とその背中を見つめる。
男に恋愛感情という事実に戸惑いがないのか、あまり悩んでいる様子もないまま片想いをしているらしいけど。
そもそも恋愛感情うんぬんについては人伝だから、小山くんが本当に翔君に対して恋愛感情を持っているのかは定かじゃないのである。
恋人だからこその考えすぎという場合もなきにしもあらず。けれど、捨て置く事も正直出来ない。
夕勤メンバーは全員帰ったが、少しの間は退室が続く。
「翔君の夕勤が無くなったら、俺が週二になります?」
客室清掃でベッドメイクをマネージャーと行いながら聞くと、少し悩むように唸ってからマネージャーは言った。
「いや、宮田入れる」
「えっ」
「どうした」
思ってもいなかった夕勤デビューに手が止まり、マネージャーが怪訝そうに俺を見る。
これは言って良いのだろうか。
宮田君に確認してからのが良いな。
マネージャーの中で夕勤は宮田君に決まっちゃってるっぽいし、小山くんに対してあまり良い印象を持ってない宮田君が夕勤に入るってなったら…いやでも彼はあからさまに攻撃的ではないし、いつものように少年のような明るさで別け隔てなく誰にでも笑顔だ。
「……いや、大丈夫かなあって」
「大丈夫だろ、宮田だし」
どういう意味だ。
まあ、フロントも出来るし夕勤に入ることだって問題ない。
「確認は取るけど、大丈夫って言うと思うぞ」
「そうですね」
床にコロコロを掛けて、既に風呂掃除を終えている翔君は部屋を移動しているので、風呂場もコロコロして掃除は終わり。
夕勤に宮田君かあ、とテープを剥がしながら息を吐く。
こんな状況じゃなければ夕勤デビューって遊べるが、態度も仕事も問題ないと分かっていても心配になってくる。
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