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中編
07
 


 会長を辞めて復学なら一般生徒寮に移ることになる。
 委員長は、理事長が小野宮を意図的にひとり部屋になるように計らうと予想しているが、実際そうなる確率は高い。
 負い目を隠すようにひたすら都合よく物事を持っていく。

 家柄が中流だろうが、小野宮の周りへの人望はそれを関係なくするほどの威力がある。


 今の小野宮朔がどういう人間になってしまったのかは分からないが、何の考えを持って役員らや平川を在籍させ、自身の復学を了承したのか理由が知りたい。
 全てが変わったのではなく、小野宮は自身の全ては失くしていないような気がした。



 そして小野宮が倒れてから数日後、委員長から、生徒会役員らが会長を無しに活動を再開させたと聞いた。
 今さら感が否めないものの、倒れてからやっと目が覚めたのか、新しい会長を立てることなく本来会長が担う仕事は副会長が代理となって生徒会は復活した。

 ただ、文化祭までには三年の卒業関係までも終わっていたため、多忙にはならない。そこがさらに役員たちへの罪悪感や圧力となる。
 自分らが居なくても、小野宮は生徒会を機能させ、更に大量の仕事を先まで終わらせたその実力が確かなものであると。それは自らが生徒会の虚位であると大っぴらにしているようなものだ。
 委員長は嫌みな笑みを浮かべて、時おり生徒会室に行ってはイタズラに圧力を掛けているらしい。
 ただの嫌味を言ってるだけなのだが反応が面白くてな、といつだか笑っていた。



 生徒会役員たちが本来の職を全うするべく戻ったということは、結果、今まで散々役員やその他の取り巻きに構われていた平川真澄は一人になった。
 役員以外の取り巻きも小野宮の卒倒を目撃してから、今まで盲目的に周りを牽制しながら側にいた平川の近くで見ることはなく、勝手に罪悪感に苛まれて自己嫌悪にでも陥っているのか教室や廊下で見る表情は以前とは違って暗いものに変化していた。



 理事長が決めた役員やその他の生徒、平川の処分について、退学も役員除籍もないという決定に抗議していた役員の親衛隊や元取り巻きの親衛隊らは、解散はしなかったものの対象が目を覚ましたと安堵はしたが親衛隊を辞める生徒も多かった。
 そして生徒は平川に対して愚直なまでに軽蔑の眼差しや言葉を浴びせる。
 しかしそれも最初だけで、突然反発しなくなった平川に生徒らは目も向けなくなっていった。
 それは平川真澄という個体を“空気"もしくは“存在しない"ものとして扱っているようなもの。
 無関心、という生徒らの答えが、平川を本当の孤立へと向かわせた。

 平川に目を向ける事も、存在を認知している者も、話し掛けるなどあり得ないという状況が出来上がる。
 それは生徒間で素早く広がり、教師陣にも瞬く間に蔓延していった。
 役員らは時折平川を見掛けても、最初は複雑な目を向けていたが、時間が経つにつれて他の生徒らと同じように平川の存在を認知しなくなった。





「恐ろしくなるくらい静かなんだってな」
「……」



 委員長の使い走りでサンドイッチを持って風紀室に行くと、例なく委員長だけがそこにいた。
 いくつかのサンドイッチを漁りながら言った委員長は、しかしそれほど話題に興味があるようには見えない。



「近く、朔が退院して一般寮に入る」
「……そうか」



 平川についてはそれだけで、委員長は小野宮の近況を当たり前のように口にした。



「生徒は混乱するだろうが、まあ、長くは続かないだろうな」
「なんでそう思う」
「物事に対して無関心になった人間が、他人に返すものは大体決まってる」
「……」



 今の平川は今までが嘘のように周囲に無関心で、生徒は平川に無関心で、小野宮は全てに無関心。
 この学園が、平川真澄という人間ひとりの存在でどれだけ影響を受けたのかが伺い知れる。
 小さな社会である学園において、火種はその色を見せやすく、広がるのも消えるのも早い。
 影響を受けやすい環境であるが故に、生徒の上に立つ人間が結果的に居なくなったことで学園は不安定になった。
 そしてこれからもそれは続いていく。
 生徒らが持っている、小野宮朔という人間のイメージが壊れてしまう事は、小野宮の実績がもたらした必然なのかもしれない。



 


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