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中編
06
 


 数日後、委員長から呼び出されて風紀室に入ると何時ものように委員長だけがソファでふんぞり返っていた。



「なんだよ」
「朔が目を覚ましたらしい」



 呼び掛けに返ってきた言葉が、一瞬なんのことだか理解出来ずに反応が遅れた。
 ───朔。小野宮朔が目を覚ました。


 数日間昏睡していた小野宮が目覚めたという事実は、予想より遥かに安心感をもたらした。
 ソファに座ると力が抜けて背凭れに寄り掛かる。



「……そうか」
「まあ、面会の許可は下りなかったが、代わりに理事長から報告が来た」



 委員長でもダメだったか。
 理事長からすれば、全校生徒も教員も責任者である理事長ですらも共犯と同じ。誰が行こうと、小野宮が拒絶反応を示す可能性はあるんだろう。



「朔の容態だが、体に関しては軽度の栄養失調くらいだとさ」
「…体以外は」
「……理事長の話では、もう今までの小野宮朔ではない、らしい」



 それはつまり、精神に異常が出たってことか。



「理事長が行った時に拒絶反応はなかったが、感情表現は愚か表情の変化も乏しい、というか無表情でしかない。声も抑揚がなく一定。まるで流暢で抑揚なく喋るロボットみたいだったと、理事長は言っていた」
「……」



 俺の知る小野宮は、生徒会室で引き込もって仕事をし、日に日に窶れていく姿ばかり。
 だけど確かに、生徒の前では小野宮は変わらない生徒会長として振る舞っていた。あの時のそれと、今聞いた話ではまるで正反対。


 小野宮朔は活発で優しく、リーダーシップがある。笑顔も多くよく誰かに話し掛け社交的で伴って友人も多い。親衛隊の数も周りの比ではないと聞く。
 なにより小野宮は、この金持ちばかりが集う学園にとって異質の庶民、良くて中流なのだと。
 生徒会長になる前は庶民であることで悪い噂も多々あったが、生徒会長になってからの人望の厚さは計り知れない。


 そんな小野宮は、もう居ない。
 実際本人を見たわけでも話をしたわけでもないせいか、疑問の方が強かった。
 疲れきっていても尚、生徒の前では違和感なく“生徒会長"だったのだから余計にそう思える。



「…で、小野宮はここに戻ってくるらしい」
「……」
「ただ、生徒会長ではなくただのいち生徒としてな」
「辞めるのか」
「理事長の提案だそうだ。それを朔が飲んだ。条件を付けて」
「条件?」



 生徒会長を辞め、ただの生徒として帰ってくる。その理事長の提案に対する条件を出したということは、小野宮は学園を辞めるつもりだったのか。

 委員長は足を組み替えて溜め息をついた。



「今の生徒会役員を辞めさせない、平川真澄は退学にしない、というのが条件」
「……は?」



 意味がよく分からず、腑抜けた声しか出なかった。

 原因である役員や平川を学園に残し、剰え役員を生徒会に在籍させることが、小野宮の復学条件。
 そんなもの小野宮にとって負でしかない。



「それ、マジで本人が言ったのかよ」
「……だろうな。理事長と付き添いに行った副理事が大人気なく泣きそうな顔をしていた」
「信用出来ねぇ」
「確かにそう思った。だが、入院先の院長もそれを聞いている」
「……なんでそれ知ってんだよ」
「面会は出来なかったが病院には行ける。院長に話を聞いた」



 手ぶらでは帰らない、ってわけか。
 行ったからには必ず何かを手にして戻る。委員長にとってそれは無意識に出来る情報収集なのだろう。

 得体の知れない人間ではあるものの信用は確かな委員長が言うのなら、それは確かに小野宮の意思。



「復学してから少し様子を見るが、お前はどうする?」



 あからさまに目が笑ってやがる。俺がどうするのかは予想しているんだろう、こいつは。



「───平川が来てから倒れるまで、朔は一人になれる場所を探して、時々そこに居たらしいが、復学してからも行くだろうな」
「……そうかよ」



 何が言いたいのかは何となく理解をした。
 様子を見て行けってことか。
 今までの小野宮ではないということは生徒らにとってかなりの衝撃で、復学して以前のようにまとわりつくと違う反応があるなんて混乱するだろうな。
 もし小野宮がそれを良しとしないなら、必ず一人になろうとすると、委員長はいつも通り気味悪いくらい先を見る。



 


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