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中編
05
 


 鼻で笑ってはいたものの、委員長の表情は険しいまま。
 いくら優秀だからって、人間ひとりに出来ることは限られる。それをやり通したという小野宮朔という人間は、もはや高校生とは言えない。

 過労死する社会人のニュースが浮かんだ。
 あれだけやって倒れたんだ。過労死だってあり得なくない。



「見舞いは行くのか」
「許可があればな」
「許可?」
「面会謝絶になるだろうな。理事長の許可がなけりゃ行けない」



 確かにまあ、あの状況で倒れたんならまず親がそうするはずだ。
 だが委員長には別の考えもあるらしい。



「追い詰められて倒れたんなら、まず朔の精神状態を危惧するはずだ。精神に異常を来して不安定になれば、ここの生徒ってだけで拒絶反応を起こす可能性がある。安静にしてもらうには、面会謝絶が一番適切ではあるんだろうがな」
「……まあ…」



 言われてから気付いた事だった。
 確かに、小野宮の立場を考えれば、仕事を放棄し剰え邪魔をするような行動をしていた役員たちの尻拭いをして、役員たちが戻らないと分かってから本来今の時期はやらなくてもいい仕事までも片付けた。
 それでも、誰もが小野宮を今までと同じように生徒会長としてだけ見ていて、小野宮がどんな状況なのかを知る一般生徒はいないに等しい。
 役員が平川の側から離れないにも関わらず、どこかで思っていたんだろう。
 自分達の知らないところで仕事を終わらせていて、だから平川とずっと一緒に居るように見えるだけだ、生徒会役員たちは皆が優秀だから、仕事をしないわけがない───。

 今までの崇拝対象としてのフィルターのようなものが、少なからずにも程があるほど生徒たちにあった。
 だからこそ、小野宮が全校生徒の前で倒れた事が衝撃だった。


 小野宮にとって、ここの生徒たちは自分を追い込んだ共犯者みたいなもの。
 もちろん俺もそこに含まれているだろう。名前を知らなくても、ここの生徒で小野宮が受け入れるのはきっと委員長だけだ。



 そう思い至った瞬間、鳩尾が握り締められるような痛みが走った。
 頭にも電気が流れたような感覚がして、今までの小野宮に対する自分の感覚がなんなのかを理解した。




「……小野宮は、帰ってくると思うか」



 痛みを無視して委員長に問う。
 奴は目をあわせてすぐ他所を見て、少し唸ってから口を開いた。



「正直、俺には分からない。朔の意思でここを辞めるか、理事長が無期限休養を与えるか、親が中退させるか。どれも可能性があるからな」
「……」
「それで?お前の確かめたいことは済んだか?」




 やっぱり気付いていたか。
 聡い委員長のことだ。俺が平川の側につくことを、ただそのまま受け入れたわけではないと早い段階で分かっていたはずだ。
 しかしそれが小野宮の事だとピンポイントで知られるとは思っていなかった。



「……まあ、な」
「ふーん。じゃあ、朔がここに戻ってくるとなれば少しは手を貸してやるよ」
「いらねぇ」
「ま、そう言うな。お前には借りがあるからな」
「いらねっつの」



 大体、借りがあるから手を貸すなんてそれだけじゃないだろ。
 何をするつもりなのか知らないが、俺にとって借りを返されるだけじゃなく上乗せしてきて借りを作らせるつもりだ。
 それを分かってて誰がやるか。



「とりあえず俺は一度朔の見舞いを理事長に頼んでみるが、お前はどうする」
「……行かねえ」



 行ったところで、小野宮にとって俺は関わりのない生徒であることに違いはない。むしろ意識が戻っていたら逆効果になりかねない。
 俺の考えを知ってか知らずか、委員長はそれ以上聞いてくることはなくその日は帰って飯も食わずに寝た。



 


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