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中編
03
 

 使えるもんは使う。
 聞こえは悪いだろうが、誰だってそういうことを無意識にやっている。意識するかしないかってだけで使い方も変わる。
 風紀委員長は使えるもの全てを使う。
 分かりやすく、分かりにくく、悟られないように。


 その目立つ役職を持っていながら上手く溶け込ませて、いつも掌で踊らせる。
 人間味がある分たちが悪い。何を考え何を企んで何をどこまで見据えて動くのか。この学園で一番厄介で、一番謎だ。



「槙野、」
「あ?」



 嫌がらせに選んだ甘ったるいサンドウィッチを嫌味なほど旨そうに食べる委員長は、「疲れた時の糖分は良いな」と真面目な顔で更に嫌味を言って、正直殴りたくなった。



「文化祭、近いから気を付けろよ」
「……」



 この男は読めない。
 何を知り、何を考えその答えに至ったのか。何を気を付けろと思うのか。
 平川と小野宮の事だろうが、一体どちらをどう気を付けろと委員長は考えているのか。俺には分からないが、気を抜くとすぐこいつはその洞察力で悟らせる。
 生徒会の内部で何が起こっているのか、平川当人やその周りがどうなっているのか、俺の報告以外で、俺の知らない事までこいつは知っているんだろう。






「新ー!次あっちのお化け屋敷行こうぜ!」
「真澄、お化け屋敷は二人一組ですから、私と」
「なに言ってんの副会長ー、真澄は俺と行くのー」
「…オレと行く、」
「真澄、変態と一緒に暗い密室なんか入っちゃダメだよ」



 文化祭中、クラスでやっている模擬店に現れた役員たちの圧力から、平川は早々と休憩扱いになった。まあそのまま終わるまで戻らないと分かってるんだろう。
 平川に引っ張られて付いていく羽目になる俺も、元々文化祭に出る気はなく素直にされるがまま。
 ついでにサッカー部エースの腹黒似非爽やか男も付いてきた。

 教室に現れた役員たちの顔は疲れなど見えない。むしろ生き生きしているようだ。小野宮と違って、赤みがさしている。
 文化祭中に小野宮の姿は見ていない。開会式に見たきり、生徒会室に居るんだろう。

 委員長が言った「気を付けろ」という言葉の中身は未だによく分からない。
 平川に関してか、小野宮に関してか、それともどちらもか。
 平川が小野宮に近づかない以上は俺も近づく事は出来ない。あくまで平川の取り巻きだからだ。制限が掛かるのはもどかしい。



 とにかくコイツらが居る以上、平川が一人にならなければ何かが起こる事はないかもしれない。
 このお化け屋敷とか密室で暗い所では分からないが、まあ、普段からデカい声で何かしら喋っている平川の声が突然消えたら誰でも気付くし、無駄に勘のいい役員の誰かならその理由も色々考えるはず。
 盲目さで狂っていなければ。

 けれど、まあ、手遅れだったのだ。この時点では既に、小野宮が文化祭中に姿を見せない理由を知る由もなく。
 ただただ喧しい連中と一緒に居て観察しているだけの俺には、何も知ることは出来ない。憶測だけで。



「───新、どうした?」
「……なんでもねぇよ」



 前髪と眼鏡に隠された顔で聞かれたってな、と溜め息を吐きそうになったが、したらしたで喧しくなりそうで、とりあえず流しておく。
 「ふーん」と平川には珍しく追及して来ない。周りは相変わらず騒がしいが、どちらかと言えば取り巻きが平川と二人きりになりたくて争奪の言い合いをしているだけで、今は平川が騒いでいるわけではない。
 そこに少し違和感があるものの、気のない返事をしたまま、なぜか平川は黙って俺を見ているように思えた。目線が分からないから何とも言えないが、顔を向けたままだからそうなのだろう。



「なんだよ」
「ん?……なんでもねーけど、新さ、」



 そこでやっぱり違和感があった。
 平川と普通に会話している事が大半ではあるものの、なんというか、雰囲気が少し違っているような。
 既視感があるそれに、眉が寄る。



「…いや、やっぱいいや。なんでもね」
「……」



 平川はそう言って取り巻きたちの方へと向かっていった。その振り返り様に口が笑っていて、何故だか余計に違和感を抱いた。
 なんなんだ。


 


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あきゅろす。
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