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中編
02
 


 仕事をしない役員。
 ただ騒ぐだけの集団の中で、ただひとり、騒ぎに目を向けることなくひたすら仕事を片付ける会長の姿があった。
 まるで会長のデスク周りだけが切り取られたような、そんな状態。

 俺はその姿を見ていた。
 他の役員たちの仕事をも一身に受けていながら成績も落とさず、平行して仕事も片付けるその姿を、俺だけが見ていた。


 同時に気付く。
 生徒会室に縛り付けられている会長が、その周辺以外で殆ど姿を見せないこと。
 綺麗な顔に隈が目立つようになったこと。
 日に日に窶れていくこと。
 それでも、会長は生徒会室から出れば平川が来る前と変わらない、生徒に人気がある会長でいること。
 時折その表情が、目が、闇に沈むように光を失うこと。
 虚しさや寂しさ、苦痛や不安を混ぜた色を、必死に隠していること。

 会長を見続けていると気付くのは、そんな不穏な空気ばかりだった。
 誰も気がつかない、わずかな変化。
 そしていつしか俺の中で、今まで遠目に見るだけで関わることがなかった生徒会長、小野宮朔という人間に関してばかりが占めていた。


 役員たちが常に平川の側にいるというのに、会長ひとりでこなしているために生徒会の仕事についても特に騒がれず、他に誰も生徒会長の異変に気付かないまま、月日だけが過ぎていく。


 そんな中、風紀委員長が渦中の根元である平川の様子見という名の監視が出来る生徒を探していると聞いた。
 この話は知り合いの風紀委員が言っていたことで、学園内には表立って広がってはいないものだった。

 小野宮朔に関して気になっていた俺は、普段一般生徒は入れない生徒会室に入るために、風紀委員長へ直談判しに行った。
 名目は平川やその周囲の観察、その報告。
 委員長には名乗り出た理由を聞かれたが、曖昧に流した。
 俺が平川の近くにいることで小野宮の姿を見られるなら、日に日に弱っていくその末路を見届けて自分がどうしたいと思うのか、それを知りたかった。
 極端には生徒会長を見捨てる、とも言える。
 残酷で薄情な行為。
 それでも見続ける事を選んだ。



「なあ朔、少しは休憩しろよ!」
「…あぁ、悪いな。中途半端にはしたくないんだ、これを終わらせたい」
「そっかー、終わったらこっち来いよな!」



 平川は生徒会室に来ると、よく同じようなことを小野宮に言う。その度に同じような事を返されているし周りの無能になった役員や取り巻きが、平川の意識を自分達に向けようと必死になっている。
 笑みを浮かべる小野宮の目元の隈はどんどん濃くなっていて。


 けれど、何回目だかに同じような光景を目にしたあと何気なく平川を見た。
 その時初めて、平川の見えにくい顔に違和感を抱いた。


 たまたまそう見えただけかもしれない。
 言動や雰囲気は変わっていない。
 なのに、違和感がある。


 今までのような傍若無人さではなく、それはまるで───…まるで、何かを危惧しているかのような。
 その違和感はたった一瞬で、気のせいだったかと思った。
 周りの反応に変化はない。
 いつもと同じ光景。
 だからこそ余計に気のせいに思えた。

 その後もしばらく小野宮と平川を観察していたが、その時のような違和感はなく、いつしか忘れていった。
 取り巻きの盲目さや平川への制裁に巻き込まれながら、周りの観察やその報告に費やされていく日々が、いつの間にか日常的になる。

 非公式である風紀の幽霊委員になってから、面倒臭がりな委員長からの容赦ない腹立たしい要求が来るようになった。
 早朝の見回りはまだいい。だがなぜか買い出しまで頼まれる。……実際は頼まれるなんてカワイイもんではないが、文句を垂れながらも聞いている俺も俺だと呆れる。


 昼休み前の風紀室には基本的に委員長しかいない。
 平は授業だし、副は巡回中だ。
 生徒会役員と同様に風紀の委員長、副委員長には授業免除の権利がある。幽霊委員である俺は特別優遇だが、それがあるから委員長はこうして買い出しをやらせるんだろうな。



「───…あんた人使い荒すぎ」
「使えるもんは使う主義なんだよ」



 そんな潔さいらねぇ。
 購買の袋を漁る委員長を見ながら溜め息を吐いた。これで何度目かと数えることもやめて、自分の目的の為に風紀を使う俺もこいつと変わらないのかもしれないと思った。





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