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中編
新たな構築。‐1
 


 それから一週間が経った頃。
 事は予想外にも呆気ない終わりと結果を持って目の前に現れた。


 放課後に委員長から呼び出しを受けて風紀室へ行くと、そこには既に槙野がいて不機嫌そうな顔をしている。
 また委員長に何か言われたのだろう。
 当の委員長はコーヒーを淹れていて、振り返らずに「お疲れ」とだけ言った。
 それに返してソファに座る。


 コーヒーを貰って数口飲む間、委員長は無言で腕を組んで何から話そうか考えてるようだった。
 カップを置くのを合図に、委員長が口を開く。



「この一週間、仲介と漏洩を担ってる生徒をそれとなく見てた」



 生徒会会計、俺の親衛隊副隊長、一年のひとり。
 会計は仕事に追われていて、俺が入院してから仲介は行っておらず実質仲介役をやめたと見ていいらしい。後釜もいないという。
 親衛隊副隊長に関しても、会計と同じように動きはない。仲介も滅多に行っていないが連絡は取っているらしく、後釜は親衛隊のひとりだという。
 一番動いているのは一年で、槙野が調べた四人のうちの一人だ。仲介も漏洩も続けているが、一年なので後釜はなし。




 それを一週間ないし短期間で大方の状況を把握した委員長は、会計から順に呼び出して一人ずつ尋問した。最初は誤魔化したりやってないと言い張っていた彼らは、委員長が確実な証拠を提示すると諦めたように話したという。
 特に会計と副隊長は、俺が薬の被害に遭ったと委員長が漏らした途端、顔を真っ青にして全て吐いたとか。

 漏洩に関しては、生徒の個人情報や学園の内情を報告し、外界側にとって有益な生徒を外界がピックアップするという。少なくとも利益を上げようとする外界側と卒業した後も細々と取引を続けている生徒は確かにいるらしい。


 薬の取引を全て切ることは出来ないが、漏洩だけでも止めなければ、この先学園にとって大きな痛手を負うことになる。
 理事が危惧していた漏洩は、今は止まっているが今の二、三年が卒業してしまえばまた再開する可能性がある。
 それを抑止するため、漏洩を行った生徒に対する制裁を確実に実行し、二度とやりたくないような恐怖の対象にすればいいと委員長は笑った。
 どんなことをやるのかは敢えて聞かないが、委員長なら確実にやり切り生徒に恐怖を植え付けるだろう。



 娯楽程度ならまだ黙認出来ても、今回公になった裏側の闇は、学園全体を揺るがす大きな事実だった。
 閉鎖的な学園だからこそ起こってしまった事態は、仲介と漏洩を担っていた生徒が俺に関わる人物だったのもあってしばらくは無くなるだろう、と委員長は言った。


 これが無くなることはないだろうが、少しでも防ぐことが出来れば、俺はそれで構わない。




 結果を平川に伝えると、「これでひとつ達成した」と満足そうに笑った。
 平川の目的がどんなもので幾つあるのかは知らないが、少しでも負担が減って良かったと思う。

 ただやはりというか、これもひとつの通過点に過ぎない。平川はこれから卒業までには目的を全て達成するらしいが、孤立に関しては変わらないという。卒業まで僅かであっても達成してしまえば式を待たずに学園を去ることは、平川の中で決定して揺るがない事実だった。

 彼にとって学園というのは、経歴に乗らないただの通過点。生徒達の中には衝撃として存在を残してはいるものの、今の状況が波打つことなく続けば、そういう事があったという事実も消えてしまう。
 出来事はあった。けれどその中心がどんな姿をしていて何て名前だったのかは忘れてしまうのだろう。残るのはただ、傍若無人な一人の転入生という存在だけだ。
 平川真澄はそれすらも予測して、ただひたすらに孤立する。そして必要な情報を得て目的を遂行していく。
 その行動の中で、俺に関係することはないのだから、関わる理由もない。
 一時的な利害関係だったのだ。
 彼も関わることを望まないし、俺も関わろうとは思わない。
 だからその他にかける言葉もなく、在り来たりな挨拶を交わし、平川の部屋から出ていった。向かう場所は決まっている。




 そういえば委員長も、これで少し楽になると深く息を吐きながら唸っていた。それでも愚痴は無くならないだろうけれど。


 

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