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中編
4
 


「小野宮さんが欲しがる情報かどうかは分からないけど、僕が知ってる事を話すよ」
「頼む」



 その前にお茶を入れてもいいか、と言う平川に頷くと、平川はキッチンへと入っていく。
 委員長と槙野の方はどうなっただろうか、と考えているうちに、平川はなぜか未開封の二リットルペットとコップを持って戻ってきた。



「安物で悪いけど、これしかないんだ」
「構わない。それはよく飲む」
「そうなの?意外」
「ここは金持ちばかりだが、俺は庶民だ」
「ああ、なんか納得した。庶民的なところがあるとは思ってたけど、やっぱり小野宮さんはいい人だ」



 庶民的なのがいい人なのかは疑問だが、平川が嬉しそうに笑うから特に何も言わなかった。
 よく飲んでいたお茶はやはり慣れた味で、こっちの方が合っていると思える。


 平川はコップ一杯を一度で飲みきると、再びペットボトルを傾けてコップを満たしていく。



「…ああいう薬に関しては学園が前から探ってるらしいけど、表立ってやらないから知り得る情報には限界がある」
「そうだな」
「小野宮さんは単独?」
「いや、理事に許可を貰って風紀の委員長と槙野が動いてる」
「え、小野宮さん理事長と親しいの?」
「入院中に見舞いに来て、負い目を感じているようだったから」
「あぁ…使えるものは使う」
「間違いではないな」
「嫌味がないあたりが小野宮さんの良いところ」



 控えめに笑う平川に、そうだろうか、と思ったが、嫌味を含むかどうかと聞かれると否だと答える。
 ただ使う使わないという表現が悪いだけだ。協力してくれるのにそれを受けないのは勿体ない。



「前から動いてた?」
「いや、強力なものを身に受けたから腹が立った」
「え、小野宮さんが?」
「ああ」



 嘘、と目を瞬かせた平川は、眉を寄せて考え込んでしまった。
 しかしそれは長くは続かず、少し唸るとそらしていた目を合わせてくる。



「差し支えなければ、誰から受けたか聞いても?」
「構わない。持っていたのは長岡文也だ」
「そう、なるほど」



 納得するだけの情報を平川は知っているのだろう。文也が俺とよく一緒に居るところを平川は見ているだろうが、近い立場にいる奴がそういう行為に走るのは別に珍しくない。
 行動を起こしたのが文也であることを気にしているのではなく、平川は持っていた人物が文也であることを意識しているように見える。



「あれは、親衛隊から流れるのか」
「それもあるね。長岡さんが親衛隊の事実上の隊長であることは知ってるんだね」
「勘」
「凄い勘だ。とりあえず今も小野宮さんの親衛隊は機能してるし、長岡さんも裏で隊長を続けてる」
「そうか」



 表立って動いていないだけで、やはり解散はしないか。
 親衛隊からそういう類いのものはよく流れているし、親衛隊の誰かが仲介役ではないかとは思っている。。
 けれど横流ししているのは目立たないように身を潜めていることが殆どだろう。



「今回のやつはたぶん…、効果が強力なものの場合、仲介役と直接取引する必要があるから」
「強いからか」
「そう。強力なものを、他のものと一緒にしたら大変だからね。それなりに金額も上がる」
「直接ということは文也は仲介役を知っている?」
「まあ、仲介役に会ったとしても素顔とは限らない。用心深いから」
「……そうか」
「取引に使う場所もバラバラで、規則性もない。外で扱ってるやつも仲介役も、売る側にすれば良い儲け話だからね、ここは特に外に流れない」



 閉鎖的な学園はいい取引先ということだ。だから止まらない。
 昔から続いているそれは、元を辿ればひとつの場所だ。学園の内情を知っているとすれば、必ずその時の仲介役との間で随時報告されていると考えて間違いない。




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