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中編
2
 


 委員長はそれすらも既に頭のなかにあるだろう。
 どちらの使用者を捕まえても情報は既に得ているものばかりで、新しく得るものが殆どと言っていいほどない。
 結局被害者にしろ処理を終えてしまえば特に問題ないと言うのだから、やはりここは一般世間とは違う。

 無味無臭の液体、顆粒や錠剤まで数多ある種類の同系品の出所は、さすが金持ち学園というべきか徹底した闇取引。初めて使用が確認されてから随分経つと言われているが、その当時出所を突き止めて潰しても、どこからともなく湧き出てくる。

 取引先は確実に外界にある。その外界の取引自体は潰せないが、この学園生徒という取引先は切ることは可能だ。
 けれど根絶やしは難しい。数時間で勝手に治まるものや、多少性欲や精力が強まるくらいなら然したる問題にはならない。
 だが俺が摂取したものは、かなり強いものと言える。状態を簡潔に説明した時に委員長がそう言った。

 出しても出しても治まらず寧ろ酷くなるのは、かなり強いものらしい。
 文也はその種類を選んだのか、はたまた得たものが強力なものだったのかは、本人に聞かなければ分からない。
 まずは今まで通り、加害者に事情を聞くと委員長は言った。



「後はまあ、親衛隊辺りか」
「他は俺が聞いてくる」
「は?朔ちゃんやるの」
「当たり前だ」
「槙野はどうする?」



 ずっと黙っていた隣に顔を向けると、槙野は腕を組んでソファの背に凭れていた。
 行動力なら槙野はかなり役に立つが、他人との関わりが殆どないから聞き手は向かない。
 槙野は体を起こすとコーヒーを飲み、長めに息を吐き出した。



「ちょっとそっち側の取引手に心当たりがある」
「おい、初耳なんだけど」
「警戒が強くて鼻が利く。あんたに話せば目を光らせるだろ、それに気付くから放置してた」
「警戒心は強いだろうが、そんな敏感なのかよ」
「一回潰されると、敏感になるだろ」
「……まあな」



 槙野の心当たりは委員長との会話で大体見当がついた。委員長もそうだろう。
 協力者を得たところで、ひとつ私案していたことがある。



「ひとり、話を聞きたいやつがいる」



 会話が切れた時にそう言うと、二人の視線が寄越された。
 この件に関して無関係にも見えて、実は今まで一番頻繁に被害に遇いそうになっていた生徒は、外界との繋がりやそういう取引に関わりやすい立場にいる。
 一度は弱いものを食らっているのだから、あの負けず嫌いは必ず調べているはずだ。
 被害に遇いそうで遇わなくなったのは、本人が何かしら手を出したと考えていい。


 誰だ、という目に向き合い、一言告げた。



「平川真澄」



 見開かれた目。驚きは予想していたのでそれ以上は何も言わない。
 平川真澄は転入生だった、現在孤立している生徒。あれはただの猛進的な生徒ではなく、頭の回転は早いし外界の繋がりも強い。
 聞いた話では特に夜の世界での行動範囲は広く、学園に関係する取引も多少知っているはずだ。
 いま、学園では孤立していても、世界はここだけではない。
 平川真澄がただ孤立しているだけなら自主退学もあり得るが、いくら俺があの時退学を拒否しても本人の意思で行われる自主退学は止められない。しかし彼は残っている。それは平川真澄が学園に残る理由があるということ。


 学園に居ながら外界と連絡を取っているとなれば、平川真澄は学園の何かと外界を繋げている中継点になる。
 これはただの憶測に過ぎないが、平川真澄が突然転入してきて自らの存在を目立たせながら、誰にも言わずに何かをしていた可能性があった。
 一見すれば、去年のアレで意気消沈しているように思える。俺もそう思っていた。
 しかし平川真澄は、孤立しているにも関わらず、喋らないだけで雰囲気は何も変わっていない。
 寧ろそうなることを分かっているような、真っ直ぐな目をしているのに気づいた。


 ただ、転入したての頃のように戻そうという思惑があるのかもしれない、という可能性も無くはない。
 違和感がある。
 話せるかどうかは分からないが、やってみる価値はある。



 二人は心配そうな目をしたが、大丈夫だと突き通した。
 その為に槙野が居るのだと言うと、槙野は首を傾げ、委員長は悪そうな笑みを浮かべた。


 


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